フリーエリア2
俺がガキの頃から持っている銀の懐中時計。蓋の裏に母さんの写真が入っている。黒髪の巻き毛に白い肌。目もとが俺にそっくり。俺がこの懐中時計を譲り受けた時は,父さんの写真が入っていたらしい。俺は父さんを知らない。父さんは俺が生まれて間もないころに死んだらしい。それに,これを譲り受けた時は,母さんが死ぬ直前だった。
――アンドレ…。お母さまは,もうあなたのそばにいてあげられないの。だからこれを,あなたに託します。いいわね…アンドレ…。おばあちゃまの言うことをよくきいて,いい子にしていてちょうだいね――
――かあさまぁ!死んじゃ嫌だよぉ!!僕,ちゃんといい子にするし,お手伝いもするし,お勉強もちゃんとするから!!かあさまぁ!!―あれから9年…か。このジャルジェ家に引き取られたのは…まあ,正式にいえばおばあちゃんに引き取られたんだけど。でも転校の手続きや学用品などの準備は,旦那様がしてくださった。
転校先の小学校では,まわりは良家のご子息・ご令嬢で俺が物珍しいのか,意地悪されたり村八分にされていた。そんな頃オスカルも,親の七光りだと言われていた嫌がらせを受けていたこともあった。だからこそオスカルを守り抜こうと思ったんだ。俺はどうなってもいい…!でもオスカルを侮辱するのは許さない!!この思いはこの頃芽生えはじめた。今,母さんがこの世にいたら伝えたいことはやまやま。多分1日じゃ話しきれないと思う。一番話したいことはオスカルのこと。旦那様が学費だの旅費を出してくれたこと。おばあちゃんのこと。
ねぇ,母さん。俺ね好きな人が出来たんだよ。今,その人とは婚約までしているんだよ。
そしてありがとう。母さん。
………………………………………*アンドレの手紙へつづく*
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