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「お嬢様…。物置を片付けていたら,このようなものが…。お嬢様のものでしょうか?」
メイドのジュリアが薔薇の浮き彫りが施された小さな木の小箱を差し出してきた。
「わぁ!懐かしい!!子どもの頃大切にしていたオルゴール。…トロイメライ…そう…私はこれを子守唄として聴いていたんだよね…。警視庁長官の父上に大手化粧品会社社長の母上…。」
オスカルの脳裏に母の声が聞こえる。
―オスカル…。お母様はお仕事が忙しくて,いつも傍にいてあげられないの…。寂しくなったり,お母様に会いたくなったら,これをお母様の子守唄として聴いてちょうだいね。―
あれは…3歳のときだった。
それから,だんだんと大きくなって,恋を知ったとき,アンドレにも言えない悩みが出来たとき,私はこれを聴いていたんだよね…。 オスカルはネジを巻いて確かめてみる。愛らしい音をだすオルゴール。
「大丈夫。壊れてない。」
それを聞いたジュリアは安心したようだ。
「そういえば,母上は?」
「奥様は今朝4時にお帰りになられまして…。11時にお起こしする予定です。」ばあやが,小さなホワイトボードを示す。
「そうか…。じゃあ,このオルゴールを11時に母上の枕元に置いて。…ふたを開けてね。」
「かしこまりました。では,旦那様のお着替え頼みました。行ってらっしゃいませ。」
本当はアンドレと一緒に行きたかったんだけど…。アンドレは今日練習試合があるからいま留守なんだよね。せっかくフィアンセ(しかもジャルジェ家公認!)になったのに…。これじゃあ,恋人時代とあまりかわらないじゃないか………。グスっ…!
……………………………………
…………警視庁長官執務室…………
「長官!お嬢さんがいらっしゃいましたよ!お通ししますね!」
「何…!オスカルが…か?通せ。それから,コーヒーを2つ頼む」オスカルは執務室に入っていく。「お久しゅうございます父上。おかわりありませんか?これは着替えです。」
執務机に着替えの入った紙袋をおく。
「オスカル,お前昼飯はまだだろ?一緒にどうだ?たまには2人で食事も悪くないだろう。」
2人で地中海料理店オリーブへ入った。
「父上,今朝は顔を洗ってないのでは?顔が少し薄汚れています」「わかるか?顔を洗ったのは3日前だからな。」
「全く父上も仕事となると,身なりを気にしなくなるんだから…。忙しいのはわかりますが着替えくらいはしてください。」
そう言って,水を飲む。
「わかったよ。お前も母親に似てきたな。ところで,アンドレとは最近どうなんだ?」…すると,さっきまで笑顔だったオスカルの顔がくもり…拗ねた顔になった。
「アンドレは最近私のところにきません。全く…私と仕事,どっちが大事なんだか…!」
そりゃあ,仕事じゃあないのか?子どもの頃からさみしい思いをしているのは知っているのだか…。いくらなんでもそれは…。まあ,ワガママなこれにはそれくらいのお仕置きをしておきたい。
………………………………………
父上との食事を終えて卒業した朝香ノ宮中学校へ向かった。剣道部の後輩たちをコーチするためだ。顧問の先生がオスカルに頼んだのだ。卒業してから何ヵ月ぶりだろう。でもなぜかひどく懐かしい気がする。
………………………………………
…………朝香ノ宮中学校…………
「ねぇ~!ほら!!オスカルお姉さまよ♪今日はどうなさったのかしら?あんまりここにはいらっしゃらなかったのに♪」
女子生徒がキャーキャーさわぐ。「オスカルお姉さま!私,一度でもよろしいから,お姉さまとワンポイント・マッチで試合をやりたかったですわ~!」
「オレだって,オスカルさまに憧れて剣道部に入部したんです!」…といきなり顧問の先生が………「お前ら!!ジャルジェは今日,練習を見るために来たんだ!!遊びに来たんじゃない。さっさと練習に戻れ!!」しぶしぶと戻っていく下級生。やれやれとでも言うように先生が,
「本当にお前は,人気者だったな。なんだか,特別な少女って感じだな。」
……特別な少女……か。昔もそう言われたな………………………。――あの子はね,特別なのよ!だってさ,授業で手を挙げたらまっさきにあの子が先生にあてられるのよ!音楽の時だって1人でピアノ弾かされるし,絵だっていつも貼り出されるのよ。
宿題だって褒められるのあの子だけ。お金持ちの子って得ね!!どうせ陰でお金を払っているのよ!―そうだ………。いつもそう言われてきたっけ。
あれは…運動会のときだった。クラス選抜リレーで私たちのチームはビリで…,私が最後の走者だった。負けたくない!嫌だ!!このまま負けるなんて!これは私の実力…!そう…!私の…!見ていろ!!このままお前たちに好き勝手言わせない…!あと1人…!
……抜いた……!
そう…それから彼らは何も言ってこなかった。これが私の実力が認められた日だったんだ…。
実力の世界はいい……。だって,本当の私を見てくれるんだから。一生懸命やろう…!お稽古や勉強,ピアノに剣道,なぎなた,書道にダンス,茶道,華道…!一生懸命やれば,きっといつか本当の私を見てくれるんだから。
――あの子,今度のピアノコンクールで金賞とったんですって!!テストも学年トップだって!!――
そんなこともあったな…。いろいろありすぎて,忘れてた。
……………………………………
……………一宮高等学校……………
「なあアンドレ。彼女ほったらかしで部活来ちゃって大丈夫なのか~?」
帝がボールを片付けながら聞いてくる。
「うーん…。どうだろ…。浮気まではいかないと思う。せいぜい拗ねてイジケるくらいだと思う。」…でもどうだろ…。本当に浮気にいくのかな…?でも,俺には文句言えないんだよね…。オスカル!!本っ当にゴメン!!お前が浮気しても何にも言わないし,引き裂こうともしないから。気のすむまでやってくれ!!
……勝手に浮気だと勘違いしている人がここにいる。お前は自分の彼女を信じてないのか?アンドレ…。オスカル,大変な彼氏を持ったね。
………………………………………
………………………………………*ビューティー・マリン株式会社本社ビル*………………………… 「まあ,オスカル!!どうしたのです?こんな時間に。それにアンドレは…?女の子がこんな時間に出歩くなんて……。」
そう言いながらも執務室へ招き入れる。
「いや…。少し会いたくなったから…。お忙しいのならば,これで失礼しますが。ばあやが心配していると思いますので。」
ソファーから立ち上がろうとしたら,
「いいえ。大丈夫です。それより今日,新作ができましたの。化粧品会社MIZUKIと共同開発した化粧水,『月下美人』良かったら使ってちょうだいね。」
瑠璃色のビンと真珠色のビンをビューティー・マリン株式会社の紙袋に入れる。ビューティー・マリン株式会社は,化粧品,エステティック,ヘアメーキャップ,ネイルサロンなどなど…。とにかく大きな美容専門の会社である。附属の専門学校もあるのだ。これだけ大きな会社をよく女性1人で守ったものだ。
「では,私はそろそろ帰ります。お邪魔しました母上。」
紙袋を持って立ち上がる。
「そうですか…。アンドレとばあやさんによろしく。気をつけて帰るのよ。メインエントランスまで送るわ。」
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…………ジャルジェ邸宅…………
遅いな…オスカル…。やっぱり…やっぱり,浮気!?
おいおい,アンドレ。お前は自分の彼女を信じてないのか?それに女々しいぞぉ~!
「お帰りなさいなさいまし。お嬢様。お風呂とお食事どちらになさいます?どちらも準備できていますが。」
「お風呂にする。食事はいい。外で済ませてきたから。アンドレ,後で私の部屋に…できるだけ早く……ね。」
そう言って私は部屋へ着替えを取りに向かった。
浴槽に浸かりながら母上の会社での出来事を思い出す。会社に行った時社員達に言われたことを――ほら!見てジャルジェ社長のお嬢さんよ!!素敵ねぇ!
オスカル嬢ってなんだか特別な少女って感じ!あぁして歩いているだけでも女王様みたいだ。――
特別な少女…特別な少女…か。
そう言えば,あの頃は稽古の時以外口をきいてもらえなくて村八分にされていたっけ。稽古着が水で濡らされていたり,ロッカーに砂を入れられてたり…。だからこそ一生懸命にやり抜こうって思ったんだ…。
……………………………………
……………オスカル私室……………
「オスカル,入るぞ」ノックをして確認する。
「入れ」と短い返事がかえってきた。今夜のオスカルは,夏用の淡い水色の夜着(これまたスリットが利いている)だった。長椅子に座ってリラックスした様子。サイドテーブルには,林檎酒のビンとグラスが2つ置いてあった。
「遅い!!アンドレ!最近私のことほったらかしにしちゃって!!どーゆーつもりだ!?まさか桃林寺ルイと……!?」ヤバいオスカルがこんなふうになるとかなりキレてるんだ。
「ゴメン。オスカル…。淋しい思いをさせちゃったね。それに俺は浮気なんてしてない。お前だけだ本当にゴメン。」
そう言って俺はオスカルを前から抱きしめていた。腕の中でオスカルは,拗ねた顔のまま抱きかえしてきた。本当に甘え下手なお嬢様だな。
「アンドレ…。今度私のことをほったらかしにしたら,ただじゃ置かないからな」そう言って彼女はさらにきつく抱きついてきた。
………………………………………**Fin**
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