フリーエリア２
この話は原作を激しく逸脱したパロディで、荒唐無稽な展開になっております。
それを踏まえた上で『読んであげても宜しくてよ』と思われる寛大な方は、お進みくださいませ。
ナレーター クリノスケ
ここは、フランス衛兵隊。
今朝の練兵場に隊員たちが集まってきました。一班の隊員たちが何やら話しています。
「なぁ、ミッシェル、今日ってヴァランタンの日だって知ってるか？」
「うん、女性から男性にチョコレートをプレゼントして、愛の告白するんだろ？」
「それって、本命チョコってやつだな」
「他に、義理チョコとか、最近は友チョコってのが流行ってるよなぁ」
「だけど、今日、面会日じゃないから彼女からチョコもらえないんだよなぁ」
「えっ？ ラサールって彼女いたっけ？ …見栄張るなよ」
「あはは…」
「俺たち、1つももらえないって事か…」
「いや、待てよ。身近に女性がいるじゃないか」
「えっ？ 隊にいる女性っていったら、食堂のおばちゃんと……隊長？」
「そうだ！隊長がいる！」
「お、俺、隊長からチョコもらいたい～」
「隊長って、大貴族の令嬢だろ？金持ちなんだからさぁー 俺、ゴ○ィバとか、ジャン○ール・エ○ァンとか、ピ○ール・○ルメとかの食べてみたいなぁ」
「フランソワ、おまえって顔に似合わず贅沢なヤツだなぁ」
「俺さー、隊長とポッ○ーチョコで端と端から、こうやって食べ合って…」
「ばーか アンドレにぶっ殺されるぞ。大体、ヴァランタンって乙女のイベントだろ？ 隊長がヴァランタンって柄かよ～笑っちゃうぜ～」
アランの背後から、忍び寄るその影は…
「誰がヴァランタンって、柄じゃないと？」
「うわぁ～ たっ、たっ、隊長！ い、いつの間に？」
「これでも一応、乙女の端くれなのでな、ヴァランタンのチョコレートなんぞを可愛い部下達の為に用意したのだが？ アランくん？」
「そっ、そうなんですね… あは…は…」
「やったぁ～ 隊長からチョコもらえるぞ～」
「ありがとうございます～隊長～」
大喜びではしゃぐ隊員達を見て、オスカルさまも嬉しそうです。
「ああ、それから、アランくんには特別に豪華なおまけがあるぞ」
「えっ？俺だけ特別？ いや～まいっちゃうな～」
「後で、私と一対一で剣術の稽古の特訓だ！ ありがたく思え！」
「え゛えっ～～ それだけは勘弁してくださいよ～」
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こちらは、昼下がりの司令官室
（司令官室をノックする音）
「入れ」
「失礼します。隊長に面会を希望されている女性がいらっしいま…っ痛て！」
言い終わるか終わらないうちに、隊員を押し倒して入ってきたその女性は？
「ロザリー！」
「オスカルさま！ オスカルさま！！ オスカルさま！！！」
と、お決まり事のようにオスカルさまに抱きつき
「お会いしたかった…懐かしいオスカルさまの香りがします」
と、再びお決まり事のように、オスカルさまの香りを嗅ぐロザリー
ロザリーは、匂いフェチなんでしょうか？
オスカルさまの軍服の袖口の匂いを嗅ぐロザリーが、堂々と切手になっていましたね。
「急にどうしたんだ？」
「うふふ…オスカルさま、今日はなんの日かご存知ですか？」
「ああ、ヴァランタンの日だろう？」
「ですから、お持ちしましたわ、手作りのガトーショコラを！」
バスケットの中から、ピンクのリボンでラッピングされたガトーショコラを執務机に置くと、満面の笑みで微笑んでいますよ。
「わざわざ持ってきてくれたのか、ありがとう。ベルナールは変わりないか？」
…おや？ 春風ロザリーの様子が一変、さむーい北風がどこからか吹いてきて
「あ゛ぁ！？ あの人なら、ここ２日家に帰っていませんわ。いったいどこで何をしてるやら。ふいっと帰ってきたかと思うと、すぐ鉄砲玉みたいに出かけていくし……ったく、新聞記者の妻なんて、やってらんないわよ……ブツブツ」
ロザリー、急にやさぐれちゃって、なんだかキャラ変わってません？
「…色々、大変なんだな…」
オスカルさま、北風にあてられたせいか、寒そうに二の腕を擦っておられます。
「あら、いやだ。あたしとしたことがお仕事のお邪魔をしてしまってごめんなさい。オスカルさま、御機嫌よう～」
「……行ってしまった、私の北風。 じゃなくて春風か…」
今度は、粗野な衛兵隊の空気が一転、なんだか妙に雅な空気が漂ってきましたが…
「…で、なんでここにいるのだ？ジェローデル」
「マドモアゼル、今日はなんの日かご存知ですね？」
「ああ、ヴァランタンだろう」
「ふふ… どこぞの国では、女性からチョコレートを贈らせているようですが、その様な事は以ての外。 フランス貴族の名に恥じぬよう、私から愛の証をお持ちいたしました」
うわっ、見事な白薔薇の花束。いったい何本あるのかしら…
「我が屋敷の温室にて育てさせました。あなたがきっと御所望だと思いまして、食用の白薔薇を」
オスカルさまって、薔薇の花びら食べるんでしたね。
「ふーん、こんなもん食えるのかよ？」
「何だね、君は？」
「おまえこそ、何だ？ 何で近衛のワカメ野郎がこんなとこにいるんだよ～」
「アラン！ おまえも何の用件でここへ来たのだ？」
「へっ？ それは、…つまり…その…」
「ふっ… いつ来ても粗野な平民の多い所だ。 マドモアゼル、あなたには一日でも早く近衛にお戻りいただきたい」
「なっ、なんだと～～ 俺はこれでも貴族だぞ！」
「悪かったな、平民で」
アンドレが食堂から戻ってきたようです。カップ＆ソーサーを乗せたトレーが、わなわなと震えていますよ。
「今度のショコラは、淹れたてで熱いですよ、ジェローデル少佐」
少佐の顔色がみるみる真っ青に… ジリジリと後ずさりしています。
「や、やあ…アンドレ・グランディエ。君はまた、高額なクリーニング代を請求されたいのですか？」
「そのくらいのはした金は、いつでも持ち合わせていますよ」
ジャルジュ家のお給料って、そんなにいいのかしら…？
羨ましい …
少佐はオスカルさまに薔薇の花束を捧げると
「あなたの美しさの前では、この白薔薇も色あせてしまいますが、あなたを引き立てる脇役くらいにならお役にたてましょう」
「おい、アンドレ！ ワカメ野郎に言われっぱなしでいいのかよ？ おまえだって、得意なんだろう？ キザったらしい台詞を滔々とよう、『千の誓いが…』とか、『サテュロスの…』とか、なんとか」
「よせ、アラン！ アンドレは私と二人きりの時しか、そういう台詞は言えんのだ」
「あぁ？ そういうことかよ……あほくさ…」
「マドモアゼル、今日のところはこれで失礼いたします。しかし、これだけはお心に留めておいていただきたい。私はいつでも、いつまでも、あなただけを受け止める準備はできております。どこぞの平民のように、決して性急な行為には及びません故、どうぞご安心を」
少佐がオスカルさまの手を取り、口づけをしようとした瞬間、アンドレがすかさず払い除けましたよ。
「しつこい男は、嫌われますよ、ジェローデル少佐」
「その言葉、そっくりそのまま君に返すよ、アンドレ・グランディエ」
うわっ、二人の間に火花が散ってますけど…
まさに呉越同舟だわ。
少佐がなんとも良い香りを燻らせながら退出すると、アンドレが扉を開けて、すかさず塩を撒いてますよ。
オスカルさま、つかつかとアンドレに近づくと
「アンドレ、面白いものを見せてやるからついてこい」
「ん？ 外出するのか？」
「いや、 兵営内だ」
アンドレが小首を傾げながら、慌ててオスカルさまの後をついていきました。
その行く先は？
「ジャルジェ准将！ いったいこれは何のまねだ！？」
司令長官室の外の廊下まで、怒鳴り声が聞こえています
この声は、ブイエ将軍のようですが…？
執務机に置かれたのは、綺麗にラッピングされたチョコレートのようです。
「ヴァランタンのチョコレートですが」
「ヴァランタンだと！？ ふっ、ふざけたまねを！」
「お気に召しませんでしたか…」
「当たり前だ！ こんなものを貰う筋合いなどない！！」
「承知いたしました。 しかし、…せっかく母が…」
オスカルさまが、机の上に置かれたチョコレートを引っ込めようとした瞬間、ガシっと将軍の手に阻止されています。
「どうなされました？」
将軍の様子が変です。顔がみるみる赤くなって怒っているのか、にやけているのか、それはもう何とも言えない複雑な表情です。
「こっ、このチョコレートは、君の母上が…？」
「はい、母が…」
将軍ったら、下を向いてなんだかモジモジしちゃってますよ。
「女性から贈られたものを無下に断るわけにもいくまい。故に、これは丁重に…受け取っておく」
あら？ 先ほどと言ってる事が、気持ちいいくらい違ってますけど？
「左様でございますか、それでは、これで失礼致します」
オスカルさま、将軍の部屋を退出し、急いでその場を立ち去ると、堪りかねたようにお腹を抱えて笑い出してしまいましたよ。
「アハハハ… アンドレ、見たか？ 将軍の顔！」
「おい、あのチョコレート、本当に奥様からのものなのか？」
「そんなわけないだろう？ 父上一筋の母上が」
「じゃあ、おまえ…」
「『せっかく母が…』綺麗にラッピングしてくださったのに……だ」
「え～～っ！？」
「将軍がなぜ父上を目の敵にしているのか理由が解らなかった。かなり昔から、犬猿の中だったらしいが、軍隊絡みなら誰かが真相を知っていて、私の耳にも入ってくる筈だろうがそれもない
父上に直接聞いても口を濁すばかりだったしな」
「それで、鎌をかけたのか？」
「見事にビンゴだっただろ？」
「おまえの悪戯だって、ばれたらどうするんだよ」
「う～ん、どうするかな～」
オスカルさま、辺りの様子をキョロキョロと覗うと、アンドレに近づき首に手を回すと…
あら、…まぁ♥
「その時は、俺も一緒に大目玉をくらえってことか？」
「さすが、わたしのアンドレだ。察しがよいな」
「おまえの悪戯には、子供の頃から散々つき合わされてきたからな」
「ふふ…」
もぉ、勤務中なのに、おあついことで。
***************************
本日の勤務は滞りなく終了し、オスカルさまとアンドレは帰路の馬車の中です。
「なんか、変なんだよな」
「何が？」
「おまえ、今まではヴァランタンなんて、どこ吹く風って感じでまるで興味がなかっただろ？それが、今日はお祭り騒ぎみたいに隊員達にチョコレート配ったりして」
「うっ…そ、それは…つまり……だな…」
「何？ よく聞こえないよ、オスカル」
「だっ、だから…ヴァランタンっていうイベントを…してみたかったんだ…私も…」
「へぇ～ やっとスイッチが入ったわけだ」
「えっ？」
「ふふ… おまえの乙女のスイッチが入ったってことだよ」
「私がヴァランタンって柄じゃないと、内心笑っているんだろう？」
「そんなことはないよ。想いが通じ合って初めてのヴァランタンを、忘れずにいてくれて嬉しいよ、オスカル」
「…うん」
「…で、一番大切な人のを、忘れてないだろうな？」
「チョコレートが欲しいのか？」
「う～ん、もっと甘いものが…」
「やっ…やめ…ろ」
「…ん？ …じゃあ、やめる？」
「……そんなこと聞くな…好きにしろ…」
「では、…遠慮なく♥」
あらあら、馬車のカーテンを閉められてしまいました。
う～ん、残念です～
お屋敷に帰ってからの二人は、チョコレートより甘く、甘ーい時間を過ごすのでしょうけど、その話は、いずれまた…
Fin
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