フリーエリア2


「あれから、一年経ちます。」
『なにが?』
「ドルー・ブレゼのやつを斬ろうとしてあなたに止められた。」
『そうか……。……雨の音が聞こえる…。』
「ええ。あの日と同じ…。あのとき、腕に痣が出来ませんでしたか?」
『痣?いや、大丈夫だ。』
「よかった…。あなたの腕に痣なんか作ってしまったら俺は……。」
『お前、優しいな。着任当初は随分と虐めてくれたのに。』
「あなたが好きだからですよ。好きだからつい虐めてしまう…ケツの青いガキのやることです。あなただって小さい頃は従卒殿に意地悪をしたでしょう?」
『そう言えばよく泣かせた。』
「ほら、俺たち似てるんです。」
『嬉しそうだな。』
「それにしても…、あなたは狡い…。」
『狡い?どういう意味で?』
「あなたが来るまで、俺は衛兵隊で一番剣を使えたんです。」
『そうらしいな。』
「俺を初めて負かした腕がこんなに細いなんて……。反則だ……。」
『何を言い出すかと思えば。』
「腕だけじゃない。いつも威厳に満ち溢れているあなたの身体は、こんなふうに俺の胸にすっぽり収まってしまうほど小さい。」
『お前、何か変だぞ。百合の花の香りにあてられたか?』
「あてられたとしたら、それは百合じゃなくあなたの瞳にです。」
『そんな台詞を言うとは、お前もフランス男だな。』
「茶化さないでください。あなたの蒼い瞳に自分の姿が映っているのが嬉しいんです。…………なんだ、寝ちまったんですか…。あなたは…本当に狡い…。【軍神】の寝顔がまるで天使だなんて………。」
              終
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