フリーエリア2


「あれからもう一年か。」
『なにが?』
「ある外国の伯爵夫人と出会った。」
『ああ……。……もう忘れてくれ。』
「あんな美しい女性を忘れられるものか。しかし…。」
『なんだ?』
「この円やかな頬、華奢な肩、括れた腰。こうしてみるとあの伯爵夫人は確かに君だと判るのに、何故あのときには気付かなかったのか…。全く、自分の迂闊さに呆れるよ。」
『そうだな…。お前は昔からちょっと抜けたところがあったな。お前、私のことをずっと男だと思っていただろ?』
「仕方がないだろう?軍服のご令嬢なんて見たことも聞いたこともないぞ?しかもそのご令嬢ときたら、そこらの【重鎮】と呼ばれているお偉方よりもずっと有能で果敢だ。」
『軍人になるために生まれてきたようなものだからな。私は。』
「思えば、私たちの出会いは最悪だったな。君のことを高飛車で鼻持ちならない近衛士官だと思った。」
『私だってお前のことをちゃらちゃらした遊び人だと思ったぞ。』
「あの軍服の殻の中には、こんなにすべらかな肌が隠れていたとはね。」
『あの方と比べたりしてるのではないだろうな?』
「まさか!私とあの方はそんな関係ではないよ。」
『そうなのか?』
「そうさ。今更君に隠してどうする。」
『それもそうだな。…そろそろ帰らなくては。』
「まだ外は暗いぞ?それにほら…肩がこんなに冷たくなってしまっている。今日は非番なのだろう?朝食には君の好物を用意させるよ。」
『そう…か。では…もう一度温めて貰おうか…』
「何度でも。お望み通りに。」
              終
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