フランス旅行回想録 【 Voyage 】

こちらは管理人のフランス旅行記です。
旅行前の準備のこもごもや、旅行中にフランスからUPしていた雑文、帰国してからの回想録などを置いています。

★2013/5 回想録
旅行準備から現地UP版までは、かつて【Hermitage】というおまけノベルを集めたブログにUPしていたものからの転載。
回想録からが、この「Voyage」でUPしはじめたものです。
(今はクレーム等により一部公開していません)

また、この旅行記には、追随するコンテンツとして【Webアルバム】がございます。
アルバムでは、管理人の訪れた各地の画像が2000px以上の大判サイズでご覧いただけます。
ベルサイユ宮殿や大小トリアノン宮などのお部屋が、壁紙の模様や扉のひび割れまで見える詳細さでUPされております。
スライドショーにすることも出来ますので、ご覧になれる方はどうぞ。
全部で1183枚の写真がご覧いただけます。

★2015/4 回想録
2015/6/12よりUPを始めました。
こちらもWebアルバムをUP中で、ただいまは3410枚の画像がご覧いただけます。
最終的には、およそ5500枚程度のアルバムになる予定です。

 

    この男、このあとの観劇予定を判っているのか?
    ヤツとしゃべりたくなくて、しばらく私は黙っていた。けれど、開演まで1時間を切ったところで、一応言った。
    「CATS、もう少しで始まるけど、判ってるよね?判ってて、何も仕度してないんだよね?」
    私自身は、この公演は観られなくてもいい… いやむしろ観なくてもいいか、とも思い始めていた。
    理由は単純で、パリで嫌な思い出を増やしたくないのと同様で、それにCATSまでもを巻き添えにしたくなかったからだ。
    私に声をかけられて、ドレ男はだいぶ驚いた。
    あらゆる手配を私に丸投げしていたので、本当になんにも気づいていなかったらしい。
    「え?あとどれぐらい!?」
    「1時間。普段なら、もう劇場にいる時間だね」
    「劇場までは?」
    「40分はかかると思うよ。メトロは20分ぐらいだけど、駅から歩くみたいだし」
    ドレ男は慌てて着替え始めた。
    日本のCATSでは、ときにTシャツ・ショーパン・ビーサンなんていう出で立ちの人を見なくもないが、海外の劇場となるとどうだろう。
    私はもう、行っても行かなくても、どうでもいい気持ちに変わっていた。
    「行くなら、疲れただの遠いだの、不平不満は言わないでよ?この劇場は、私だって始めて行くところなんだから」
    「判った。劇場までは俺がちゃんと調べるから」
    今度は自分が案内すると言うので、私はワンピースに着替えた。
    オーヴァーチュアまでは50分を切っている。
    チケットを持ったか、それを何度も確認して部屋を出た。

    155
    ネットから個人手配したチケット

    最寄のメトロ1号線。移動しながらドレ男は、私のiPadで劇場までの経路を調べていた。
    「乗り換えは1回。9号か12号。どっち使っても、劇場までは似たような距離」
    行ったことのない劇場だが、私はそのあたりに多少の土地勘がある。
    「…うん」
    私のアドバイスにドレ男は生返事で検索を続けるが、メトロの中でいきなり路線図を開いたって、13本のメトロとRERのA線B線C線がごちゃつく路線図が、方向音痴に判るわけがない。しかも駅名は、英語より馴染みのないフランス語。 
    私は自宅で印刷してきた劇場までのルートマップを渡した。
    「旅行の準備って、こういうこと。荷造りするだけが準備じゃないんだよ」



    メトロ12号線。最寄駅のトリニテ・デェスティエンヌ・ドルブ(Trinité d'Estienne d'Orves)駅で地上に出ると、交差点近くに立派な教会が見えた。


    サントトリニテ教会(Église de la Sainte-Trinité de Paris)

    目的のモガドール劇場は、この交差点から近いはず。
    私は足を止めて一瞬教会に見とれ、ドレ男はそんな私にかまわず走っていった。
    学生の頃に、3年かけて4回の膝の手術をした私は、あまり走ることが出来ない。ドレ男が向かった方向に小走りで向かったが、ドレ男は角を曲がって、すぐに見えなくなった。


    モガドール劇場

    軽いランニング程度でしか走れないが、通りをまっすぐ進むとすぐに、劇場らしい輝く照明の灯りとCATSおなじみの猫目が見えてきた。
    時間的にはギリギリだったが、開演には間に合っている。
    私は走るのをやめ、写真を撮りながら劇場に近づいた。
    ファインダー越しに、ドレ男が戻ってくるのも見えた。




    楽しみなキャスト表

    ここが四季のキャッツシアターであるならば、さっそくご当地ゴミを探しに行ったり、キャスト表をもらって「グリザ誰?ジェリロは?」とひとしきり盛り上がるところなのだが、残念ながら私は、パリ公演のキャストまでをカバー出来ておらず。それでもキャスト表を見ることは気持ち的に大事で、写真にもしっかり収めた。







    私は田舎に住んでいるので、観劇の際には、劇場までの交通時間が読みにくい。最寄り駅までがそもそも遠く、終電・終バスともにとても早い時間のため、ソワレだと公共交通機関では帰宅が出来ない。そのため、車で劇場まで行くことが多いので、かなり余裕を持って家を出る。まだ観客の少ないうちに到着し、静かな劇場の雰囲気を楽しんでから、常設カフェでお茶を飲む。それからグッズなどを見て、開演までの時間をゆっくり過ごすのが常だ。
    このCATSパリ公演では、ことにそれを楽しみにしていた。
    初めての海外でのミュージカル鑑賞。演目はもっとも愛するCATS。劇場を楽しんで、それからグッズも買って、CATS仲間にもお土産のグッズを選んで、そして今日は、バーでシャンパンかなにかを飲みたいな。いつもは帰りの運転があるから、飲めないもんね。
    そんなふうに思っていたのに。
    クソ苛々した気持ちと、ギリギリの時間。
    バーの前はすでに混みあっていて、たくさんの人がグラスを手に談笑していた。
    「楽しみにしてたのに」
    短いため息とともに吐き出すように言うと、ドレ男は「シャンパンなんて、ホテルの部屋で飲めばいいじゃん」と的外れなことを言ってきた。
    そういうことじゃねぇんだよ!
    苛々にさらに燃料が投下され、口をきくのもばかばかしくなってくる。
    おまえ、コレがパフュームパリ公演だったとしても、同じ台詞が言えるのか?
    黙り込んだ私は、とりあえず嵩張るコートを預けようと、クロークに向かった。
    対応してくれるスタッフに、2人ぶんのコートを渡すドレ男。私は比較的大きめなバッグを持ってきていたので、中から貴重品の入ったサブバッグだけを取り出して、バッグも預けてしまった。
    暖かい劇場内。
    身軽になった私は、オーヴァーチュアまでギリギリの中、劇場内をざっくりと観てまわった。




    ジャエニエニドッツ(左)とグリザベラ


    スキンブルシャンクス(左)とミストフェリーズ


    タントミール(左)とグリドルボーン(右)


    ラム・タム・タガー

    劇場の2階3階を素通りするように観てまわる。
    あちこちに猫たちの絵が飾られ、とにかく流し撮りでシャッターを切った。煌くシャンデリアが反射して、なかなかきれいに撮れないが、時間がないから仕方ない。
    1匹1匹をじっくり観たかったし、その時間もあったはずなのに。
    そう思うととても残念で、でも時間は本当に時間が足りなくなっていて、3匹集合の顔ハメの横を、とてもとても残念な気持ちで走り過ぎた。

    ところで。
    たくさんの猫が踊り歌うCATSだが、やはり人気や知名度には偏りがある。
    猫たちは主に2つに大別出来て、それは「歌う猫」と「踊る猫」だ。
    歌猫でもっとも有名なのは、おそらくグリザベラで、ミュージカルCATSをよく知らない人でも「メモリー」はなんとなく知っていたりするだろう。
    「メモリー」は劇中で何度か歌われるが、終盤でグリザベラが歌いあげるメモリーは、その公演の印象を左右すると言えるぐらい、重要なナンバーだ。
    鉄道猫のスキンブルシャンクスも人気の高い猫で、そのナンバーでは、日本版では必ず手拍子が沸く。マジシャンのミスターミストフェリーズも人気は高く、歌にダンスにと見せ場が多い。
    舞台をまわしていく立ち位置であるマンカストラップも、賊と戦うマキャヴィティファイトの場面では、負傷しながらも皆を護るあたり、グッとくる人気猫だ。
    そういった歌う場面が多い猫とは別に、ダンスで魅せる猫たちもいる。
    日本版のタントミールやヴィクトリアは、開演の序盤で美しいダンスを披露してくれるし、カーバケッティやコリコパッド、ランパスキャット、タンブルブルータスなどは男性ダンサーの見所が詰まっていて、でかいジャンプやリフトのときの背筋や腰の安定感などを見ていると、ぴったりとフィットした衣装も相俟って、男のダンス感にわくわくする。
    のだけれど。
    うーむ。
    フランス版ラム・タム・タガー。
    この残念感…
    ラム・タム・タガーはたくさんいる猫たちの中でも特に目立ち、キャラも立っていて、見た目的にもとても派手だ。
    日本ではとてもとても人気があり、タガーのナンバー中には、観客の中から女性が1人、タガーにステージ上へとエスコートされる。
    CATSファンの間では“連れ去り”と呼ばれたりしていて、『今日の連れ去り、どこだった?』『S回転4列の角だったよ』などと、どの席から連れ去りがあったかファン同士で情報交換したりする。
    (…といっても、この話は新型コロナ以前のことで、今は判らない。私はここしばらくCATSから離れてしまっているので、知っている人がいたら教えてください。)
    私も過去に1度だけ、この連れ去りの幸運に恵まれた。
    そんな、人気のタガーなのだが、日本版とフランス版はヴィジュアルがかなり違う。
    それはもちろん、知ってはいた。
    けど。
    うーん。
    実際に見ると、その違いはかなりのものがあった。
    ちなみに日本版のCATSのキャラクターはこんな感じだ。
    【CATSキャラクター紹介】

    私が今回の公演で取った席は2階。ステージ全体を見渡したかったからだ。


    客席の様子(モガドール劇場公式HPより)

    シートの赤が濃くて、金色の装飾が効いていて、なんともクラシック。
    開演時間に本当にギリギリで、席に座った。



    2階席から見下ろすステージは、思っていた以上にコンパクト。
    円形のステージのまわりは、ゴチャゴチャとゴミが山積みになっている。
    これは日本版のCATSでも同じ。でも、日本のCATSの方がゴミが豊富(笑)で芸が細かい。
    劇団四季は日本の各地でCATSを上演しているが、その形態はおおむね2つに分かれる。
    シアターインシアターと、CATSシアターと。
    シアターインシアターは、上演地にある既存のホールの中に、CATSシアターを作る形。座席を外して客席を囲むように大量のゴミを置き、ステージ上にもどっさりとゴミが置かれる。
    CATSシアターはその名の通り、CATS専用の劇場を建ててしまう形。専用劇場なので、その空間はがっつりCATS。ただ、建てるCATSシアターによって、違いは多少ある。
    S回転席といって、アトラクションのように客席がぐるーっと回る席があったり(なかったり)、セットの一部のように2階席が設けられたジェリクルギャラリー席があったり(なかったり)、CATSシアターにも多少の違いがある。
    でも共通しているのは、ご当地ゴミがあるということだ。
    仙台公演だったら、笹かまの箱。
    横浜公演なら赤い靴。
    東京公演ならば、雷おこしや東京タワー。
    その公演地をイメージさせるものがゴミとなって、ホール内のゴミの山の中に混ざっている。それを探すのもまた、CATSの楽しみ方のひとつだ。
    でも残念なことに、パリ公演のCATSでは、ゴミはそこまで工夫されておらず、面白みのないものばかりだった。

    劇団四季の公演では撮影禁止だが、こちらでは当時は撮影可だったので、席から数枚撮ってみた。
    先ほどの画像では明るさが足りなくて、何がなんだかよく判らないので、同じ画像を少し明るく加工してみる。




    こんな感じ(笑)


    ステージゴミのアップ




    幕間のステージ

    幕間の休憩時間には、ステージ上にオールドデュトロノミーが残る。
    これはオールドデュトロノミーサインというファンサービスで、この休憩時間中は観客がステージに上がることが出来る。猫たちの敬愛を集める長老猫・オールドデュトロノミーから、サインをもらえるというプチイベントだ。
    日本でもあったファンサービスだが、私がCATSを見始めた頃にはなくなっていた。一時期、ほんの一瞬だけ復活したけれど、数日で中止になった。その理由は“お客さまの安全上”ということだったと記憶している。(短い休憩時間に、人がステージに殺到してしまうため)
    私は2階席にいたことと、ギリギリに劇場についたことでパンフをまだ未購入だったのもあって、このオールドデュトロノミーサインには参加しないつもりでいた。
    (せっかくサインをもらうなら、ぜひパンフレットに書いてもらいたかったので)
    さぞや混むのだろうな、と思って2階から眺めていたが、そんなことはちっともなかった。どの人も落ち着いていて、走ったり詰めかけたりする人は皆無。私が今までに参加したことのあるCATSのイベントでは、殺気立って大きな声を出す人を見たことがあったので、劇場や美術館が身近なフランスと言う国の国民性なのかと思った。



    終演後の、人波の引いたモガドール通り。
    来た道を引き返しながら、やっぱりドレ男と私の間には会話はない。普段だったら帰りの車の中で、互いに感想が止まらなくて、ものすごく盛り上がるのだが。
    私は道を逸れて、サントトリニテ教会の庭に入った。



    工事中らしく、建物の一部に足場がかかっている。



    荘厳な外観。
    階段をのぼり、扉口の前まで行ってみる。
    この教会のについて、1番に特徴とされるのは「低予算で建てたのに、そうは見えない」ということ。
    第2帝政に6年の歳月をかけ、当時の貨幣価値にして4百万フランそこそこで建ったのだとか。
    …といっても、私はその貨幣価値が判らないのだけれど。
    とにかく、その予算で建てたわりにはとても豪華で、今どき風で言うならば「わぁ、高見え~」と言ったところか。
    私は扉口の装飾を、しげしげと観てまわる。
    そんな私を、若干の距離を取ってドレ男が見ていた。
    が、そんなドレ男を私は放って、教会の裏手へも回ってみた。
    晩秋の夜空に高くそびえる塔。



    その先の鐘が見たくて、目をこらす。
    けれど闇は深く、それを目にすることは出来なかった。


    【イベントの幕開け】へつづく
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