いよいよベルサイユへ。
そう意気込んだ朝、目を覚ますと窓の外は雨模様。
前日確認した天気予報でも、やはり雨だった。
でも、翌日にモン・サン・ミッシェルへの移動を控えた私は、豪雨だろうが雷雨だろうが、この日にベルサイユに行かなければタイミングを逸してしまう。
多くはない滞在日数に対して、やりたいことと期待が多すぎている。
まだ太陽は登りきっておらず、暗い天窓。
充電中でコードが刺さったままのｉPadを手に取り、画面をもう１度確認した。



持っていったiPad mini。洋書風のカバーをかけてある。
ヨーロッパ在住の方から「Apple製品はひったくりに合いやすい」と言われていたので、カバーの背表紙にヘンプを２周ほどさせてからコードを編み、キーリングも編みこんだものを作って持ち歩いていた。


そこには空港で私を拾い、パリ市内までタクシーでご一緒したakoさんからのメールが開いたままになっている。
前の晩にメールをいただいたのだけれど、お返事を書きながら寝つぶれたのだ。
↓akoさんからのメール抜粋。


天気はイマイチですが、パリはいつでも素敵です。
すりにだけは十分気をつけてください。
美味しいクロワッサンも、ぜひ食べてみて下さいね。

楽しい滞在になりますように！　　　ako


私はお気遣いのお礼と、自分なりにあちこち観てまわり始めたことを書き綴り、心配しながら返信を送った。実はAkoさんには到着日の夜にお礼かたがたメールを差し上げたのだが、なぜかエラーになってしまい、送れずじまいだった。私がｉPadに不慣れだったせいかもしれない。
でも、この日の返信のメールはエラーにならず、無事に送れたよう。
不義理をしていたようで気にかかっていた私は、良かった良かったと思いながら髪など束ねていたが、今度は手塚からメールが来た。
おお！手塚じゃん。
以下、手塚のメール抜粋。


大変お世話になっております。
昨日はごゆっくりお休みいただけましたでしょうか？
パリ事務所から各ホテルへもＦＡＸを送って、館内に掲載を依頼しておりますが、おそらくこちらのメールをご覧いただいていると思い、メールさせていただきました。

5月26日(日)、パリではデモンストレーションが予定されています。
ホモ結婚法案に対するデモのようです。
予定ではデモは正午12:00より、ポルト・ドーフィヌ(Porte Dauphine)、ポルト・ド・サン＝クルー(Porte de Saint Cloud)、ヴァルベール－アウスターリッツ(Place Valhubert－Austerlitz)の3地点よりスタートし、パリ市内中心部、エッフェル塔付近へ向かいます。
これに伴いルート周辺の道路では交通規制が敷かれ、混雑が予想されます。
朝早くからモンサンミッシェルに行かれている日ですので、〇〇様におそらく影響はないと思いますが、念のためのお知らせです。

それではパリの滞在をお楽しみください。


このメールが届いたのはサイト用のアドレスの方で、パリからでもここなら見ていると予想した手塚はやはり冴えている。
ありがたいことと感謝しつつ返信してから、私はいったん朝食を取りに部屋を出た。
普段の生活なら朝ごはんなんて食べないけれど、やっぱりホテルの朝食は気になるので、旅行先だといつもきちんとレストランに顔を出す。
この日も熱々のクロワッサンを出してもらって、何種類かのハムをつまみ、ショコラなどを1杯飲んでみた。
（結局これが胃にもたれまくって、夕方まで消化できなかった。普段やらないことは、やっぱりやらない方がいいってことだ）

そうそう！
この朝食のレストランで、私は窓側のすみにいたんだけれど、なんとなく他のお客さんを見てたら、１人用の小さなテーブルに見覚えのあるご婦人が。
前の日の、ルーブル近くのタクシースタンドで私の前に並んでいた“Pink umbrella”と呼ばれていたおばあさまだったのよ。
品のよい銀髪のショートヘア。
１人旅だったのかなぁ。
文庫を開きながら、ゆっくり食事をしていらっしゃいました。



朝食後の空。晴れてきた！


さて。
私が泊まっていたホテルは２区辺りにあり、最寄り駅はメトロの8番線と9番線が通っている。
ベルサイユ宮殿を観に行くには、メトロ＋バスで宮殿前まで行くか、メトロ＋RER（高速郊外鉄道）でVersailles Rive Gauche駅まで。もしくはSt-Lazare駅から国鉄SNCFを使ってVersailles Rive Droite駅まで行くのが一般的。
その他、パリ市内中心部から出ているベルサイユ宮殿のデイツアーもたくさんあるから、１人で電車やバスに乗るのが心配な人も簡単に観光できる。

MyBus
エミトラベル
みゅうトラベル

私も一時期はデイツアーを考えたりしたけれど、結局は１人で行った。
それは私が歩くのが遅いことと、ベルサイユでどうしても観たい場所がデイツアーでは行けそうになかったから。
そういった都合やこだわりがなければ、ツアーはオススメ。チケット手配の手間もないし、プランによっては宮殿だけじゃなくて、マルシェの見学に連れて行ってくれたり、カフェでのランチが組み込まれていたり、見事な大聖堂のあるシャルトルまで足を延ばしたり。短い時間でいろいろ楽しめるものがある。集合から解散まで、日本語ガイドがついてのバス移動だから、楽で安心・安全だし。
ああ、でも宮殿内でのガイディングはないみたい。規則だか法律だかで、宮殿内部での団体のガイディングツアーはダメなんだって。
…って手塚が言ってた。
だから内部の詳細なガイドをして欲しいなら、個人的にガイドさんを頼んで、ごく普通の観光客同士の見学中の私的な会話のようなていで、ごく静かに案内をしてもらう感じになるらしい。
団体によるガイディングツアーは、ベルサイユ友の会の内部見学会とかでなら行われているようだけれど。

私は最寄りのメトロから8番線のInvalides駅まで移動し、そこからRERのC線に乗り換えてベルサイユに向かうことにしていた。
C５線の終点が宮殿の最寄り駅のVersailles Rive Gaucheなのでアクセスが簡単だし、SNCFのVersailles Rive Droite駅の方は宮殿から徒歩30分ぐらいと、若干遠めだそうだから。
この“徒歩なん分”というのはくせもので、私の持っていたガイドブックだと、Versailles Rive Gaucheから宮殿までは徒歩3分なんて書いてある。
確かにC線の駅から宮殿へは近いけれど、３分じゃ絶対に行けない。



メトロ8番線の最寄り駅。Balardって書いてあるのは現在地じゃなくて、終点の駅の名前。最初は慣れなくて、焦っちゃってた。


メトロからRERの乗り換えは少し心配だったけれど、実際はとても簡単で、新宿や梅田あたりの巨大な地下街からの乗り換えに比べたら、全然楽勝。
RERへの案内標識を追っていけば、絶対間違いっこない。
それに。
まわりを見てたら判る。
みんなベルサイユに行く人ばっかりだから(笑)

標識と人波のままにC線のホームに着くと、すでに列車が来ていた。
RERで気をつけなければならないのは、分岐。
C線も途中からいくつかに分かれるし、高速鉄道なので、メトロと違って１駅の区間が長く、本数にも間隔がある。
間違えば、結構なタイムロス。
私は旅行を『時間を買っている』と思っているので、これは最も避けたい事態。
電車のしっぽに張りついて行き先を確認し、時刻表のモニターもよく見てみた。
…なんか、違う？
どうも“Versailles Rive Gauche”行きではないみたいだった。
だいたい“Versailles”と名のつく駅名はたくさんあるのだ。ややこしいことに。
私は近くにいたアジア系のおっちゃんに、英語で「この電車、Versailles Rive Gaucheには行かないよね？」と聞いてみた。
すると、チャウ・シンチーの映画「少林サッカー」に出てくる“鉄の頭”によく似たおっちゃんは、「多分、行かないと思うよ」と教えてくれて、その上、他の観光客にも確認してくれた。

ちなみに【鉄の頭】＝ウォン・ヤッフェイ
とても好きな俳優さんなのよ。

ホームにいる電車がベルサイユには行かないと判り、私はポメラを取り出して、ノベルの続きを書き始めた。
（これは後々「マルリー」の一部になったんだけど）
ベルサイユ行きの駅のホームに座ってノベルを書いていることが、私にとっては例えようもなく胸に迫ってしまい… つい、ぬかった。
「HI！」
鉄の頭のおっちゃんに話しかけられていた。
反対側のホームにいつの間にか電車が来ていて、それがVersailles Rive Gauche行きだったのだ。
おっちゃんは多分コリアンだと思うのだけど、私に何度も電車を指差し、「パラスベルサイユ」と教えてくれた。私たちもパラスに行くのだと。座席に座って気づいたけど、おっちゃんは妻子と一緒の４人連れだったのだ。

ベルサイユ行きのRERは相当混むだろうと覚悟していた私。
でもこの日はすいていて、４人がけのボックスは途中で1人がなん駅か座っただけで、ほぼ私の独占状態だった。
そんな電車の中、何やら音楽が聞こえてきた。
パリでは電車の中に楽団が乗り込んで来ることがあるとは聞いていたけれど、本物を見たのはそのときが初めてだった。
３人組で、アコーディオンがメイン。演奏しながら通路を歩いてくる。途中途中で思いついたように乗客に足を止め、演奏を激しくしたりする。
ググッと迫られた乗客は苦笑して、コインを渡したりしていた。
私のところにも立ち寄ったら、チップを渡して写真を撮らせてもらおうと思っていたのだけれど、アコーディオンのおじさんはコリアンの家族連れに足を止め、そのあとは次の車両へと出て行ってしまった。
今となっては残念なことをしたと思っている。
日本ではあまり見られない光景。
声をかけて、写真を撮らせてもらえばよかった。

パリ市内からVersailles Rive Gauche駅まではRERで40分ぐらい。
ホテルを出て、１時間少々で着くことが出来た。
ほんとに簡単。



Versailles Rive Gauche駅


みんな宮殿に行く人




意外なほど小さい駅舎


ここからは、人の流れに合わせてなんとなく歩いて行けば、10分か15分ぐらいで宮殿前の広場が見えてくる。
途中には小物程度のお土産やドリンク類などが買えるお店も少しあるし、手軽な食事が取れそうなお店もある。
でも、世界一の入場者数を誇るベルサイユ宮殿への道沿いだと思えば、地味なぐらい。
道順としては、駅を背に道を渡って右手にまっすぐ。この道路沿いにお店が多少並んでいて、「宮殿のチケット売ってます」みたいなポップなんかも見かけた。でも料金が書いてなかったし、安全なものかは判らない。
そしてちょっと大きな交差点で左折すると、並木道の向こうに両翼を広げた宮殿の姿が見え隠れするから、初めてのベルサイユの私でも、駅からの道に迷うことはなかった。
並木道の足元は、ゴツゴツと荒い石畳。少し歩きにくい。おしゃれで華奢な靴だと厳しそう。





だんだんと古めかしい建物が現れてくるので、いやでもワクワク感が高まってくる。この、歩道が並木になっている通りがパリ大通りで、右手に見えるのが大厩舎。左手が小厩舎。
私は気づかなかったけれど、この近くに観光案内所もあるみたい。


少しずつ近づいてくる宮殿。
歩道が終わり、石畳の大きな広場がどーんと開けて、目の前にルイ14世騎馬像。



像も大きいんだけど、台座がすごいデカイ（笑）


テレビや写真集で、何度も見た景色。
実際にその場所に行ってみたら、あの広場は平地じゃなかった。
宮殿に向かって、ゆるい上り傾斜。
敷き詰められている石畳も表面の凹凸が粗く、隙間が深い。私は緻密で滑らかな石畳を想像していたので、ここに馬車で乗りつけるのには結構揺れたんだろうと初めて気がついた。



宮殿側から振り返ってみると、のぼり坂になっているのがよく判る


最初に出てくる門。両側のお兄さんたちはなかなかのイケメン


入場口はすでに長蛇の列。広場をぶった切るように縦断している。
私はチケットを事前手配していたので、宮殿でのチケット売り場がどこなのかは今も知らない。
宮殿左側の、個人用の入場口から続く行列の最後尾に並んだ。







左がメトロ＋RER、パリ市内⇔Versailles Rive Gauche駅までのチケット往復ぶん。日本手配。1080円。
右側のチケットがベルサイユ宮殿の一般的なチケット。


こっちは一般的じゃない方のチケット。
一見チラシみたいだけれど、右上の部分に使用者の名前が印字されて渡される、ちょっと特殊なチケット。
日にち指定なので混んでるときでも必ず入れるし、大噴水ショーや音楽イベント、庭園、離宮など見学エリアが全部観られる。
ベルサイユ宮のチケットは４種類あるみたいで、庭園や離宮の入り口でチケットを買い足ししている人も結構いた。
このチケットは日本手配で3400円。（25ユーロ）


宮殿の右側にある入り口で障害者手帳を提示すれば、待たずに入れてもらえることは手塚が調べてくれていたけど、とりあえずまだ私は大丈夫なので、入場待ちの列に約30分ほど並んだ。
入場口が近づいた辺りは宮殿の門にも近いので、並びながらデジカメを手に自撮りなんかしていたら、欧米風のおじさんが「私が撮ってあげよう」なんて声をかけてくれたりして、ありがたかった。
入場口ではチケットの確認と、簡単なセキュリティチェックがある。
でもルーブルほどじゃなく、本当に簡単なもの。
そして、そこを抜けるといきなり放置。
順路が示してあって、あっちへ行け・こっちへ行けという感じではなく、“あとは好きに観てちょうだい”といった様子で、どこに行ったらいいのか判らない。
とりあえずウロウロしてみたり、写真を撮ったり。



放置気味で、なんとなく溜まる人たち


しばらくはむやみに歩く


こんなのがそこここにある


あちこち観ていたら、いつの間にやら王室礼拝堂の前にいた。
そこで私は初めて自分のいる位置がきちんと判り、持って来ていたガイドブックを参考に少し戻って、パンフレットのラックから見取り図を手に入れ、それから日本語オーディオガイドをレンタルしに行った。



パンフレット。いろんな言語のものがラックに無造作に刺さっている


開く


ひっくり返す


前面開く


さて、これでようやく見学体勢が整った。

よーし、観るぞ！！

観光地によくある“順路→”みたいなものがなく、宮殿内の出入り口も１か所だけではないから１人右往左往してしまった私。
無駄にうろうろしていたのは宮殿１階中央部の回廊だったよう。見学のメインはほぼすべて２階にあるというのに。
（ここからは、私が観て回った順に写真を貼っていきます）

まずは１階で観られる王室礼拝堂

国王家族は上階の特別席からミサに出席したそう


上階はこんな感じ


映像と模型でみる宮殿の歴史




資料室っぽい部屋が続く


でも急にこんな絵が出てくるからびっくりしちゃう






ヘラクレスの間へ


ヘラクレスの間。元は礼拝堂。ヴェネツィア共和国からルイ14世に送られた絵を飾るために作られた広間。




ヴィーナスの間


ディアーヌの間の胸像


アポロンの間　


アポロンの間　ルイ14世と16世の肖像画が対になっている


戦争の間


レリーフの馬上にいるのはルイ14世。上に浮いているのが名声の女神で、馬に踏まれているのが鎖につながれた敵の捕虜だそう


奥に続くのが鏡の間


鏡の間


天井画


混んでる…






王妃の寝室


ぎちぎちに混んでる


３人の王妃がこの部屋に住んだ。家具や装飾はアントワネット時代を復元したもの


マントルピースの胸像


そのアップ。服がリス柄




ここで３代の王妃たちの公開出産があり、19人の王子が誕生




王妃の寝室から庭園を眺める。
オスカル・フランソワもきっと見た風景


大膳式の間。王と王妃が公式の食事を取った部屋


シャンデリアと天井画




公式の食事では、テーブルにつく王族に人々の参列が許されたそう


テーブルの向かいの壁には王妃さまと子供たちの肖像画が。ベビーベッドに黒い布がかけられているのは、絵の完成を待たずに亡くなった末姫のソフィ王女のため



衛兵の間。王妃の警護のための衛兵12人の控えの間として使われた


戴冠の間。ダヴィッド作「ナポレオン1世の戴冠式」の絵が飾られた部屋。


ここにあるのは、ダヴィッドの手によるレプリカ。オリジナルはルーブルにあります。（後ほどまたルーブルに行くので、オリジナルの大きい画像はその際にUPします）
この部屋には中央にソファがたくさん置いてあるので、私はここで休憩がてら「先行版Voyage」をUPしていました。






あまり人の来ないすみっこ。古びた壁が嬉しくて、こんな写真ばかり撮っていた


見学エリアではない棟と棟の間をのぞき込む




宮殿内ショップ




結構いいお値段のものが並ぶ


この胸像は78ユーロ。約12000円弱。大きさは、ティカップよりちょっと大きいぐらい


宮殿内のラデュレ


こんな彫像がほんとにたくさん。


夜中、動きそう…







宮殿内を一巡して外へ。



ひとまわりするのに約3時間。
テンポよく見て歩ける人なら、たぶん2時間かからないかな？
この時点で、人波と香水の匂いでヘロヘロ＆腰痛でヨロヨロだった私。
でも、ベルサイユ見学は始まったばかり。

よし！庭園へ行くぞ！！


第７話　「ようやくのベルサイユ：庭園とトリアノン宮」へ続く


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