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【白熱!雪のベルサイユ!! 3】
UP◆ 2011/4/30「チーム・ジェローデルサイドで孤立するジャルジェ准将でしたが、少佐を盾に取っての時間稼ぎ。 しかも反撃に少佐の持ち球を利用するという効率の良さで、なんとか急場を凌ぎました。
攻防は今、障壁D付近で激しさを増しています。ソワソンがチーム・ジェローデルのフォワードから厳しくマークされていますね。ジャルジェ准将がそれをブロックに入りますが、どうやらチーム・ジェローデルのターゲットはソワソンのみのよう。ジャルジェ准将はまったく無視されています。どうにも不可解なことの多いチーム・ジェローデルの戦略。
そして今、グランディエがラビリンスに消えました。逆サイドのラビリンスの入口には少佐が向かっています」
謎のフォワードからアランを救ったアンドレは、チーム・ジェローデルサイドへ向かおうとしていた。
そこにルイが走りこんで来る。
「オスカルは!?」
「球切れ!孤立…してる。早く‥戻って…やんないと」
息が上がって苦しそうなルイの報告に、アンドレは駆け出した。しかしラビリンス横で思わず立ち止ってしまう。
彼女がジェローデルを障壁の陰に引っぱりこむのが見えたのだ。
オスカル、どういうつもりだ?
ただ雪球を当てればよいこの競技。接触プレイは危険な上、必要がない。
なぜ…?
そこから想像された答えに、アンドレは動けなくなった。
まるで2人の邪魔をするようで。
「おっさん、何やってんだよ!」
アランがアンドレの肩を叩いて、横を走り抜けた。
2人の間に躊躇なく割って入るアランが、なんだか遠く思える。
…俺にはできない。
軽くぼんやりしかけたアンドレだったが、流れ球に煽られてハッとした。
障壁Dで激しい交戦が始まっている。
とりあえず援護を始めたアンドレに、彼女からの指示が飛んだ。ボーナスフラッグの確保。
ノーマークのアンドレは、指示通りラビリンスに足を踏み入れた。
今回の雪ベルは、ただ勝つだけでは意味がない。彼女の真の目的は、ボーナスフラッグの獲得なのだ。
アンドレはラビリンスの中央まで氷の回廊を進む。
センターの台座に立つボーナスフラッグ。
しかし、アンドレの目に入ったのはフラッグだけではなかった。
「ジェローデル少佐」
驚くアンドレに、ジェローデルは微笑みかけた。
「君と話す機会を探していました、グランディエ」
「俺は… あなたと話したいことなんかない」
珍しくアンドレは不愉快な表情を隠さなかった。
「まぁ、話だけでも聞くといい。君にとって有益な情報もあるのだから」
ジェローデルは少しずつアンドレに近づきながら、単刀直入に言った。
「寝返っていただきたい」
は?
アンドレは瞬時には意味が理解できなかった。
よりによって、この俺に寝返れと?
「熱いショコラでもご馳走して欲しいのか?」
ふざけた申し出に、抑えようとしてもアンドレの声は殺気立つ。
しかし、ジェローデルはそれをまったく気にしなかった。
「私のチームに1人、大変目障りな人物がいるのですよ。おそらく君にとってもそうだと思うのですが」
ジェローデルはアンドレの真正面まで来ると、その隻眼を見つめて、ゆっくりとある人物の名を口にした。
「少佐、それは」
「どうです、グランディエ。私に協力… したくなったでしょう?」
アンドレは激しく動揺し、すぐには言葉が出なかった。
…オスカル、おまえ本当は…
「さて、障壁Dで激しさを増す攻防ですが、ジャルジェ准将、チーム・ジェローデルフラッグを取りに行きません。現在ノーマークのジャルジェ准将ならフラッグを取りに行けそうなのですが、どうやらボーナスフラッグが手に入るまではゲームを終了させる気はないようです。激しくマークされるソワソンを、懸命にフォローしようとしています。
そしてラビリンスに向かったグランディエとジェローデル少佐ですが…
ラビリンス内の様子を定点カメラで見てみましょうか。
えー、と、これは…
ああ、意外ですねぇ。てっきり激しいフラッグ争いが展開されていると思いきや、両者にらみ合いの様子。背を向けている少佐の表情はうかがえませんが、グランディエはかなり険しい表情を浮かべています。普段温和なグランディエが感情的になるのは非常に珍しい。音声が入らないのが残念ですねぇ何か会話をしているらしいのは判るのですが、しかしこの2人に限って『寝返り交渉』はないでしょう。
もし寝返りが成立するようなら、寝返った選手はそのチームのチームカラーのリストバンドを身につけなければなりません。
この決勝の場合ですとチーム・ジェローデルはブルー、チーム・ジャルジェはピンクがチームカラーになっているのですが…
キャプテンが寝返ることは通常ありえませんし、グランディエが寝返ることは絶対ないでしょうね。
今、少佐が徐々に間合いを詰めています。と、ああ、グランディエが!!」
障壁Dでの攻防。
状況はチーム・ジャルジェに有利なはずだった。
アンドレとジェローデルがラビリンスにいる今、フィールドにいるフォワードはチーム・ジャルジェ3人に対して、チーム・ジェローデルは2人。
しかも、なぜかチーム・ジェローデルはオスカル・フランソワをまったく無視している。彼女がその気になりさえすれば、すぐにでもチーム・ジェローデルフラッグを抜きに行けそうだった。
どうしてもボーナスフラッグを手に入れたい彼女はそれをしなかったが、しかし、その間ずっと妙な違和感にさらされていた。
チーム・ジェローデルのフォワードの1人の、からみつくような視線。その気配。
攻防に参戦しようとしても、彼女はその選手に、巧みに戦線から押し出されていた。
ルイやアランへ効果的な攻撃を繰り出しながら、彼女の行動も封じ込めるその選手の動きはただ者ではない。
なんとかアランをフォローすべく彼女が雪球を撃ちこもうとするたびに、そのフォワードはルイの立ち位置を微妙に誘導し盾にする。
これだけの能力がある者を、近衛の中で彼女はジェローデル以外に思い当たらない。
誰なんだ、この男。
それにこの選手からは、どうもこちらに接触を図りたいという意図が彼女には感じられた。
そのために、まずは邪魔なアランからつぶそうとしているような…
ならば、わざと隙を作ってみようか。
2人きりになるなら、ラビリンスが1番手っ取り早いのだが。
彼女が後方のラビリンスに目を転じると、ちょうどアンドレが姿を現すところだった。
ボーナスフラッグは!?
彼女と目が合うと、アンドレはついと目をそらした。
彼がフラッグを持っていないのを確認した彼女は、アンドレが目をそらしたのはフラッグ奪取の失敗のためかと単純に思う。
ジェローデル相手では
何ごとも標準以上にこなすアンドレだけれど、第一級の武人であるジェローデルが本気で争う気になれば、とても彼には太刀打ちできない。
ましてやアンドレは隻眼。
遠近の取りにくい彼には、この競技は圧倒的に不利なのだ。
彼女は障壁Dの戦線にあっさり背を向け、アンドレの元へ走り寄った。
隊長、危ねぇっ!
アランもルイもとっさに同じことを思った。
ひっきりなしに雪球が飛び交う中で、無防備に背中をさらすなんて!!
そんなにアンドレが心配かよ。
ことにアランは心中歯噛みする思いだったが、一瞬だけ目線を送ってきた彼女に、何かあることを敏感に感じ取った。
アランもまた、優れたな軍人であるのだ。
なんかよく判んねぇけど… あんたが何かやろうとしているなら、ここは俺らに任せて行けばいいさ。
僅かに、けれど力強く、アランは彼女に頷いて見せる。
大丈夫。あんたが戻るまで、意地でも持ちこたえてやるよ。
「どうです、グランディエ。私と手を組みませんか?あの方のために」
蒼く煌くラビリンスの中。
ぼんやりと霞んで見えていたジェローデルの姿がアンドレにもはっきり見えるぐらい、2人の間合いは近づいていた。寝返りをすすめてくるその声を黙って聞きながら、彼はタイミングをはかる。
そうだ、近くまで来い。もっと…もっとだ。
「さあ、グランディエ。これを」
ジェローデルが彼にブルーのリストバンドを渡そうとした瞬間、アンドレはそれを受け取るふりをして、力いっぱい雪球を投げ込んだ。
彼らしくない姑息なやり方。
顔面にヒットしてもかまわないとさえ思って放った1球だった。
ここでジェローデルを仕留めてしまえば試合は終わる。
それはアンドレにとって、もっとも理想的な終了の形。
しかし、ジェローデルは半笑いの表情も崩さぬまま、事も無げにその雪球をかわした。
「まったく君は短絡的すぎる。私を狙っていたのはバレバレでしたよ」
「うるさい!」
アンドレは苛立ちまぎれに次々と雪球を繰り出す。
しかし、超至近距離で撃ち込まれるその雪球を、ジェローデルは優雅に首を傾けるだけでかわしていった。
ボーナスフラッグを抜きに行こうとしたアンドレに、足止めの雪球を撃ち込みながら、ジェローデルはおっとりと言う。
「お退さがりなさい、グランディエ。ボーナスフラッグは渡しません。どうやらあの方にとって、このフラッグには重要な意味があるようだ。ならば、その意味が判るまで、あっさりと受け渡すわけにはいきません。そしてフィールドへ戻って私の申し出をよく考えるといい。もうすぐ前半戦が終わります。事態が…動くはずですよ」
2人は鋭くにらみあったまま間合いを開いていく。
「俺はオスカルを裏切ったりしない」
「そうでしょうか」
そろそろとバックしながら、それぞれ回廊に続く角までたどりつくと同時に身をひるがえし、ラビリンスを後にしたのだった。
「ジャルジェ准将、障壁Dから自陣へと下がります。これは危険!いくらノーマークとはいえ、まったく背後を気にせずに一気に下がっていきます。背中を狙い撃ちにされれば、避けることは難しい。ジャルジェ准将の向かう先にはグランディエがいますが、それにしても危険な行動です。
キャプテンの被弾は即ゲームセット。それはジャルジェ准将も判っているはず!無防備過ぎるジャルジェ准将。
しかし、さらに不可解なのはチーム・ジェローデルです。これだけすきだらけのジャルジェ准将にまったく攻撃をしかけません。どういうことなのか!
障壁Dには今、ジェローデル少佐が戦線復帰しました。チーム・ジャルジェ、一転して厳しい状況。ソワソンのマークがいっそう激しくなりそ… あ、あれ?チーム・ジェローデルのフォワードが1人、足りませんね。え!?ラビリンスに向かっている!?
そしてチーム・ジャルジェサイドのラビリンス入口では、グランディエがジャルジェ准将を抱きしめていて…
はあぁぁぁ!?グランディエ、そこで何をしている!?
前半の試合時間が残りわずかな中、両チーム、わけが判りません!!」
「……ほほう、モールパ伯。なかなか白熱した実況ですねぇ。熱ベルも楽しませていただきましたが、実況席で聞くのもいいものですね」
「…うるっさいな。今、1番忙しいところだというのに誰だよ。って、うわあっ!!」
「そんなに驚かなくても…。遅刻してしまって悪かったね」
「あ、はぁ、いえ。お越しいただきありがとう…ございま‥す」
「あれ?オルレアン公は?」
「所要ができたとかでお帰りに」
「そう。残念だな、久しぶりに話したかったのに。今日遅れてしまったのはね、ついさっき、会心の出来栄えの錠…」
「あ~、相変わらず空気読めない人だなぁ。大変興味深いお話ですけれど、恐れ入りますが、ただ今実況中ですので。特別ゲストのご紹介は休憩時間に入ってからでよろしいでしょうか?もうすぐ前半戦が終わりますから」
「あ、ああそう。悪かったね。おぉ!彼も頑張っているみたいだなぁ」
「はい?」
「あの選手だよ。今、ラビリンスに向かっている」
「お知り合いなんですか?」
「ええ。よく知っていますよ。実は今日は王妃に頼まれて、彼を観に来たのだからね」
「ええっ?誰なんです?」
「アンドレ!」
オスカル・フランソワはラビリンスの入口の前で思わず彼の腕をつかんだ。
「何やってるんだ、オスカル。背中がガラあきじゃないか。もし狙い撃ちされたら」
「いや、あえて隙を作ってみたんだ」
「あえて?」
「ああ。思った通りだった。あいつら、私には絶対攻撃をしかけてこない。この試合、変だ。何かある。それにあの謎のメンバー、どうも私に接触したいらしくて…
だから目線だけで誘ってみた。馬鹿でなければ、私のこのあからさまな行動の意味を理解して、ラビリンスに来るだろう」
「ラビリンスに?」
「そうだ。だからお前は私が戻るまで、なんとか試合を長引かせてくれ。ボーナスフラッグを奪取して戻ってくるから!」
早口でそうまくしたてると、彼女はアンドレの横をすり抜けようとした。
しかし。
「行くな、オスカル」
肩を強くつかまれて引き戻され、彼女はアンドレに抱きしめられていた。
なん…で?
「この試合、棄権しよう。ボーナスフラッグの賞金については、また別の方法を考えればいい」
「どうしたアンドレ。心配が過ぎるぞ。たかが遊競技だし、私は必ず被弾せずに戻るから」
「そういうことじゃないんだ。頼む。行くな」
彼女は邪険にアンドレの腕を振り払った。
「くどい。邪魔をするな」
彼の耳に、『邪魔』という言葉だけが強く響く。
俺は、邪魔か…?
無意識にジャケットのポケットに手が伸びる。
彼は中にしまったものを強く握りしめた。
固まったように黙り込んだアンドレに、彼女は言い過ぎたかと思ったが、しかしそのまま彼の横を通り過ぎると、ラビリンスに入って行った。
試合を保たせてくれているアランたちのためにも、フラッグを奪取して早く戻ってやりたい。
蒼い氷の回廊を足早に進み、角を2つ曲がると目の前が開けた。
視界に入ってきたのはセンターに立つボーナスフラッグと、チーム・ジェローデルのフォワード。
「私に用があるのだろう?」
彼女は壁に寄りかかってじゅうぶんな間合いを取りながら、率直に切り出した。
右手に雪球を放り投げて遊ばせつつ、相手の出方を待つ。
その男は慎重にラビリンスの中央に進み出てきた。
彼女はすかさず足元を狙って牽制を撃ち込む。
「動くな。フラッグ争いは用件が済んでからにしていただこう」
男は肩をすくめて見せた。
「あいにく私はフラッグなどに興味はないんだ、オスカル」
この声!
シールドで篭って聞こえるけれど、彼女にとって聞き間違いようのないこの声。
「なんでおまえが」
「久しぶりだな。2人きりで会うのは、あれ以来か」
うそだ。なんでおまえがここにいるんだ。
思考能力が極端に鈍くなる。
この男に会うだけで、まだこんなに動揺するなんて!!
ゆっくりと近づいてくる彼に、彼女はあとずさる。
手にした雪球を投げてはみたけれど、ろくに力が入らなかった。
「来るな。それ以上私に近づくんじゃない」
言い様だけは命令口調だが、彼女の声音は哀願している。
「オスカル。君は私に会いたくなかったのか?」
「何をばかなことを」
「私は会いたかった、あれからもずっと。君も… そうだろう?」
「黙れ!聞きたくない!!」
おぼつかない足元で、躓きながら彼女は壁伝いに下がる。
不意に相手はシールドを外してみせた。
「フェル…ゼン」
久しぶりに見る、かつて愛した男。
今でも愛しているかもしれない男。
その瞳に見つめられただけで、彼女の思考は簡単に止まる。
「私‥も…会いたかった」
惑わされるように、そんな言葉を口にしていた。
ああ。何を言っているんだ、私は!
乱されていく心のほんのかたすみで、彼女は無意識にただ1人の名を呼ぶ。
―――助けてくれ、アンドレ…
4へつづく
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