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こちらはメインコンテンツの【令嬢の回顧録】です。
開設の2010/12より概ね2013/10までにUPしたノベルを置いています。


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【7】

UP◆ 2011/8/8

    「オスカルさまが妻子ある殿方と秘密の恋ですって!」
    このスクープは、今度こそジャルジェ家の使用人たちに拡散した。
    さすがに古式ゆかしい年かさの使用人たちの耳には入らなかったが、宵っ張りの若者たちには、その夜のうちに浸透し、男も女もこの話題で持ち切りになった。
    今まで浮いた噂のなかったオスカル・フランソワ。
    唯一の浮き名といえば、王妃さまのレズビアンの恋人としてジャンヌ・バロア回想録を飾ったぐらいである。
    あまりにも男っがないので「オスカルさまには本当に女性を愛するご趣味がおありなのかも」などという説も、ごく一部では定着していた。
    「あたし、オスカルさまにならおもちゃにされてもいいわ」
    夢見がちにそう公言する者までいたのだ。


    アンドレの耳にこの一報が入ったのは、翌朝のこと。
    いつも通り、朝早くから屋敷の仕事に加わろうと部屋を出たときだった。
    彼と同じく従僕を勤める仕事仲間が、廊下で彼の姿を見るなり言ってきた。
    「アンドレ、さすがにおまえは聞いてたんだってな」
    彼ははじめ、なんの話か判らなかった。
    侍女ならともかく、男の仕事仲間からこの話を持ち出されるとは予想もしていなかったのだ。
    「とぼけるなよ。もうみんな知ってるんだから。
    オスカルさまの秘密の恋のこと」
    「!」
    彼は例え話ではなく、本当に何秒か呼吸が止まった。
    なん‥だ!?こいつ、なんで知ってる?
    「昨日の深夜から、この話で談話室は大騒ぎだよ」
    なんとかポーカーフェイスは保ったが、彼は気持ちを落ちつけるのにたいそう努力がいった。
    「あの男勝りなオスカルさまが秘密の恋なんて、奇特なお育ちのせいなんだろうなぁ。
    おかわいそうに」
    確かにオスカルは変わった育ち方をしているけれど、それが秘密の恋となんの関係がある?
    彼には話が見えなかった。
    しかし、迂闊うかつなことを言って墓穴を掘るわけにはいかない。
    とりあえず彼は聞き役に回って、相手にしゃべらせてみることにした。
    「俺、オスカルさまってブラコンだと思ってたんだよ。
    あれだけ気丈な方なのに、おまえには頼りっきりだろ」
    「そりゃ幼なじみだから、俺には甘えが出ることもあるけど」
    「な?だからてっきりブラザーコンプレックスなのかと思ってた。でもファザコンだったんだな」
    オスカルがファザコン?
    「ああいうお育ちだから、本当は寂しかったのかもなぁ。
    だんなさまがもう少し優しくして差し上げてたら、不幸な恋をせずにすんだのに」
    だんなさま?不幸な恋?
    なんの話だ?
    彼にはまだ見えてこない。
    「それともやっぱり年上の魅力ってやつなのかね。
    そういうのに弱い女って多いみたいだし」
    年上…って。俺はあいつより年上だけど、たった1つだろ?
    「しかも相当な身分らしいじゃないか、その男」
    へ?
    「だってジャルジェ家の令嬢を日陰の身にさせてるんだぜ?
    それにあのオスカルさまが、そこら辺のな~んの身分もない男のために泣くわけないだろう?」
    すみません、そこら辺の男で。
    彼は冷や汗が出そうだった。
    「ま、相手の男にとっちゃオイシイよな。
    なんだかんだ言ってもオスカルさまは箱入りのご令嬢だから、きっとそいつの好きなようにもてあそばれちゃってるだろうし」
    「それはない!」
    思わず彼は口をはさんだ。
    話の脈絡は読めていないが、そこは黙っていられない。
    「あいつを弄ぶなんて…あるわけないだろ!」
    そんなうらやましいこと、できるならとっくにやってる!
    「それにああ見えてオスカルは男慣れしてない。
    いや、職業がら慣れちゃいるけど、プライベートでのあいつはむしろっ」
    「判った!悪かったよ。ごめんごめん。そう熱くなるなって。俺も口が過ぎた。
    しかしアンドレ。
    おまえ、相当に重症なシスコンだな。大丈夫かよ。
    身分違いとはいえ、妹同然のオスカルさまをかわいがるのはいいけど、オスカルさまだっていずれは誰かのものになるんだぞ。そのときが来たら、おまえ卒倒するんじゃないか?」
    あいつが誰かのものに?
    ちょっと前ならいざ知らず、彼にとってそんなこと、今さら冗談ではなかった。
    「けど、おまえが言うように、もしオスカルさまが…その男とまだ…だったら、今度の逢い引きとやらにオスカルさまは期待してるかもなぁ。
    もしそうだったら、アンドレ、大丈夫かよ」
    大丈夫かって?
    「俺は大丈夫だよ。オスカルさえ良ければ、いつ何時なんどきでも。
    今まではあいつが全然大丈夫じゃなかっただけで」
    落ちついたようで、実は落ちつけていなかったアンドレは、彼らしくもなく微妙にズレた答えをした。
    俺が何年、いや十何年もだ。あいつだけを見、あいつだけを思ってきたことか。
    もしオスカルさえ良かったら、365日24時間体制で俺は大丈夫。
    いつでもお姫さまのご期待に応える所存でいる。
    こっちだって聖人君子じゃないから、あいつといれば時にはそういうキモチになる。
    無邪気にまとわりつかれるたびに、体を突き上げる熱いものを抑えてきた。
    若い頃には、そりゃもう気が遠くなるぐらい自分を抑えて…
    だけど。
    オスカル。おまえまさか、本当にそんな期待をしてる?
    確かに最近のあいつは2人きりになるとあんなだし、もしかしたらいいのかなって思えるときもあるけど。
    あれか?今度の休みは「ちょっとオトナになっちゃう夏」か?
    ロマンティストは妄想も激しいもの。
    仕事仲間に話しかけられなければ、危うく彼は朝っぱらから廊下に突っ立ったまま、阿保な妄想の淵に沈みこむところだった。
    「なんか幼なじみってすごいんだな。
    オスカルさまってそんなことまでおまえには話すんだ」
    やばい!
    彼は『相手の男』と自分を混同してしまったことに、遅ればせながら気づいた。
    危ない危ない。
    「あ…、えと、まぁな。妹っていっても、あいつ、弟みたいなところもあるから」
    「そういうもんかね。
    ま、いずれにしてもオスカルさまがお気の毒なのは間違いない。遊ばれてるのは確実だよ」
    また話が見えなくなって、彼ははっきりと怪訝けげんな顔をした。
    「アンドレ。おまえ、本当に知らないのか?オスカルさまの恋のお相手。……妻子持ちなんだとよ」
    「そ…んなばかな!いったいどこからそんな話が」
    「だから昨夜からその話で談話室は大騒ぎなんだってば。
    あ、ちょっとおい、アンドレ!?」
    彼は仕事仲間を放っぽりだすと、ダッシュで彼女の部屋へ走り出した。
    あいつが妻子持ちの男と不倫だと!?まさか!
    俺はそんな話、聞いてないぞ。
    使用人の部屋から次期当主の棟までは、割と離れている。
    屋敷全体から見れば、両翼として対になる当主の棟と次期当主の棟に対して、使用人たちが住むのは屋敷の裏側の目だたぬ一画。
    アンドレの部屋からオスカル・フランソワの部屋まではいくつかルートがあるが、彼は急いでいたが1番遠まわりなルートを選んだ。
    急いでいるからこそ人目を避けるために、最短ルートである私室の多いエリアや誰かに会いそうな辺りを外したのだ。
    幸い朝が早かったので、使用人たちもまだそれほど起き出していない。数人の使用人は見かけたが、彼はそのたびに身を潜めてやり過ごした。
    今、捕まったら、絶対に引き留められて、先ほどのような話を長々と聞かされるに決まっている。
    昨夜、俺が追い出されたあとで、あいつの部屋でなにがあったのか。まずはオスカルに聞いてみないと!
    彼は慎重に、かつ敏捷に廊下を進み、彼女の部屋にたどり着いた。
    早朝過ぎる訪問に、彼女が起きているかと案じたが、彼がノックをすると扉はすぐに開いた。
    「あれ?オスカル?」
    意外なことに、彼女はもう自分で身仕舞いを全部済ませていた。
    「すごいタイミングだな、アンドレ。
    今、おまえの部屋へ行こうと思っていたところだ」
    彼女は彼の横をすり抜けて、そのまま部屋を出て歩き出した。人の少なそうな廊下を選んで…彼の部屋へ向かっているらしい。
    オスカル・フランソワのたどるルートが、今、自分が来たラインをそっくり逆行していたので、彼は心密かに微笑んだ。
    幼なじみ時代の習慣と片付けることもできるが、やはり自分たちはつながっているのだと実感する。
    首尾よく彼の部屋に着くと、彼女はアンドレに出勤の支度を命じた。
    「一刻も早く屋敷を出たくて、おまえが起き出す時間を待っていた。深夜のうちにひとりで出てしまおうかとも思ったのだが」
    「怒るよ?」
    彼が手早く着替えながらそう言うと、背を向けて窓の外を眺めているお姫さまが小さく笑った気配がした。
    なんでも自分の中だけにしまいこもうとする彼女。
    判ってくれているだろうか。
    いつも共にありたいという気持ちを。
    「厩番と御者には馬車の支度をするよう、すでに私から言ってある」
    「そのとき、なにも言われなかった?」
    「? いや、なにも」
    そうか。
    彼は考えを巡らせた。
    レニエや彼女には、職業柄いつ緊急の呼集がかかるか判らない。
    そのため夜勤で待機している厩番や御者は、きっとまだ談話室へは行っていないのだろう。
    あの噂話が耳に入っていないなら都合が良い。
    オスカル・フランソワの精神衛生のためにも、昨夜の顛末を落ちついて聞くためにも、皆が起き出す前に屋敷を脱出するのが得策だと彼には思われた。
    何より彼女がそれを望んでいる。
    「行くぞ、オスカル」
    支度はまだ途中だったが、とりあえず着るものをすべてを身につけると、彼は車庫へと向かった。
    メインエントランスを使えばいやでも目立つ。
    車庫で馬車に乗りこみ、そのまま出てしまった方が良いだろう。
    ベルトを締めたりボタンを留めたりしながら急ぎ足で歩く彼は相当に無様ではあるけれど、そんなことかまっちゃいられない。
    彼女も咎めることはせず、2人は人に会わないよう注意を払いながら、朝陽の射す廊下を進んだ。
    いったいここは誰んちなんだ?
    こそこそ振る舞う自分たちにそう思わないでもなかったが、真剣な面持ちで屋敷裏手側の出口を目指した。
    人影を見れば身を隠し、秘めやかに乗りこんだ馬車がガラガラと走り出したときには、2人ともすっかりテンションが上がっていて、しばしケタケタと笑い転げてしまった。
    そんな場合じゃないのは判っているが、これじゃまるで子供の頃と変わらない。
    ばあやの目を盗んでは、屋敷から抜け出して。
    懲りもせず、彼女にローブを見せては気を惹こうとするマロンをきれいさっぱり無視して、2人、馬やら剣やら外遊びに夢中になっていた。
    結局30過ぎてもこんなことか。
    あれから20年以上経っても、2人きりになれば中身は子供のままなのだ。
    あるいは。
    本人たちにすら気づけぬ心の奥底で、あの頃に帰りたいと願っているからか。
    なにも知らなかった幸せな時代に。
    ひとしきり笑ってから息をつくと、2人はどちらともなく寄りそいあって、くちびるを合わせた。
    乱入される恐れのない状況でくちづけに没頭できるのは、2人にとっては久しぶり。
    珍しく彼女は過剰にときめき過ぎることもなく、彼のくちびるだけに集中した。
    もどかしい呼吸が苦しくて、軽いめまいを感じるほどに。
    ときおり揺れる馬車は安定が悪い。
    くちびるの感触に陶酔していた彼女は、くちづけはほどかないまま、ぐらつく体を支えようと何気なく手をついた。
    アンドレの太ももに。
    もっと言えば、アンドレの太ももの内側に。
    さらに言うなら、アンドレの太ももの内側の、足の付け根の辺りに。
    彼女のこの何気ない行動に、しかし彼は何気なくはいられなかった。
    戯れの軽いくちづけですら恥じらって身を硬くする彼女が、今はくったりとしなだれかかっている。
    いつもより少し重く感じる体。
    ひどく際どいところに置かれた手が、馬車の揺れで太もものあたりを微妙に動きまわる。
    その不規則でさわさわとした感覚。
    ちょっとオスカル、ソレやばいだろ!
    朝っぱらから見事に煩悩を直撃された。
    『オスカルさまは期待してるかもな』
    仕事仲間に言われた言葉が生々しく思いだされる。
    彼のそんな気持ちを知る由もない彼女は、依然アンドレのくちびるに酔っているらしく、しっとりと身を預けて無意識に彼の密やかな欲望を煽ってくる。
    もしかして俺、誘われてるんだろうか。
    こんな束の間の移動時間に男を誘うなんて、そんな器用な女じゃないことは重々承知しているはずなのに、そんなふうに思えて仕方ない。
    いつもなら、くちづけが長く続くと緊張感から逃げてしまう彼女。
    それが今日は彼のなすがままにくちびるを開き、深いくちづけにも応えてくれている。
    やっぱりおまえ…?
    太ももに置かれた手は引き続き際どいところをさまよっていて、はっきりと触れてくるわけでもなく、かと言って感触がしないわけでもなく、その微かさが余計にさらなる感覚を呼んだ。
    コレは…ちょっとまずい。
    移動中の馬車とはいえ状況的には密室。
    長年想い続け、ようやく振り向いてくれた愛する女が、くちづけしながら太ももを撫でまわしてきたら、彼じゃなくてもおかしな気分になる。
    そうでなくてもここ数日、彼女とくつろいだ時間を過ごそうとするたびに邪魔が入ってきた。
    がまんするのと、がまんさせられるのではわけが違う。
    邪魔をされるたびに強くなる彼女への即物的な欲望を、彼は持て余し気味だった。
    でも。
    今なら絶対邪魔は入らない。
    そして、彼女もいつになくリラックスして甘えてくれている。
    彼の腕の中で体を硬くし、とまどいと緊張で目も合わせられない普段の彼女も清らかでイイけれど、しなやかに体をそわせて太ももに手を這わせてくる彼女にも、新たな魅力があった。
    年相応の女の色香のようなものが。
    おまえ、本当に期待してるのか?
    もし、そうなら。
    彼は馬車の揺れに合わせて、彼女の胸にそぉっと触れた。
    揺れのせいでの偶然にも思えるような姑息なタッチ。
    自分らしくない振る舞いだと思ったし、もちろん彼女がいやがれば無理強いする気はなかった。
    が。
    え!?
    彼女はすいっとくちびるをそらすと、そのままスリスリと彼の首筋に顔をうずめてきた。
    頬に感じる絹糸のような感触と、香りに彼は包まれる。
    嘘だろ!
    彼の心拍が一気に上がった。
    オスカル、嫌がってない‥?
    嫌がって欲しいわけじゃないけど、でも、こんな…
    いいのか、おまえ。本当に?
    彼はもう少し大胆に触れてみた。
    「…ん…」
    アンドレの耳もとで小さな声がし、そして彼女はさらに彼の首筋に深くうずもれようとしてきた。
    際どいところをうろうろしていた指先は、際どいどころじゃなくピンポイントな部分にまで届き…馬車の揺れに踊らされ、微妙な動きをしている。
    こうなってくると、期待しているとかしていないとかではなく、もう誘われているとしか思えない。
    彼は窓の外へと目を転じる。
    今いる地点を確認し。
    …あと15分…ってとこかな。
    この動く密室で、邪魔をされない残り時間は余裕をみて約15分。
    それでドコまでできるだろう?
    屋敷で取りざたされている『オスカルさま不倫説』を思うと、そんなことを考えている場合ではないのに、つい頭がそっちへ傾いてしまうアンドレは紛れもなくただの男だった。
    それも、ずいぶんと長いこと無害できた、おりこうさんな男。
    今度の休みがおまえにとって『ちょっとオトナになっちゃう夏』なら、俺には『ご褒美の夏』…か?
    バカなことを考えながら、彼はもう少し動きやすくなりたくて、どっぷりとまとわりついている彼女を引き離そうとした。
    「ちょっとごめん」
    声をかけながら、彼女を自分の胸から起こし、座席の背もたれへと寄りかからせる。
    ピンポイントな部分で揺れていた指先がピクリと動いた。
    そして顔にかかって表情を隠していた金色の髪をかきあげる。
    「ふ…あぁ…」
    彼女は軽いあくびとともに、しょぼしょぼさせながら目を開いた。
    部屋を襲ったハリケーンのせいで一睡もしていなかった彼女は、くちづけの最中にうっかり寝落ちしていたのだ。
    彼のくちびるが、眠りを誘うほど心地よかったとも取れるが、そう思ってくれる男はあまりいないだろう。
    2人の間に漂う気まずい空気。
    「おまえ、いつから寝てた?」
    「はは…、いつからだろう‥な」
    これじゃ照れもせずに従順なはずだよ!
    いいムードかと思いきや、彼女の寝落ちでぶち壊されるというこの経験、彼はなにも初めてじゃない。
    今までさんざん期待させられ、さらりと裏切られてきた。
    彼を男と認識していない彼女に、若き日の血気盛んなオトコゴコロをどれだけ弄ばれたことか。
    でも恋人同士になってからは初めてで、妙に煽られたぶんだけ彼の機嫌は非常に悪かった。
    もちろん恋に疎い彼女にだって、くちづけの真っ最中に寝落ちしたのは、いくらなんでもかなりの失態だと判っている。
    「おまえと2人きりになれたと思ったら、つい安心してしまって」
    言い訳を始めた。
    「一睡もしていなかったんだ。
    ジュリは泣くし、エリサはキレるしエマはあの調子だし」
    「エマ!?昨夜俺がおまえの部屋から追い出されたときにいたのは、ジュリとエリサだけだろう?」
    「あのあと、しばらくしてからエマが乱入してきた。
    そうだ、アンドレ。やっぱりあの娘、ノックなどしていなかったぞ。今回のことは、私たちの落ち度だけではない。
    ちくしょう、あの娘!
    妻子ある男だのと話をさらにややこしくしやがって。
    あの娘、こんな事態を引き起こしておいて、なんと言ったと思う?」
    彼女の頭の中に、瞳をきらっきらさせたエマが浮かぶ。
    「『でもオスカルさま、ちょっと嬉しいとかって思っちゃったりしてません?』って、もうっ!!」
    先走りがちな彼女に、話が見えなくなっていく。
    「なにがあったのか、順を追って話してくれないか」
    「不倫の恋に耽っているオスカルさまの部屋へ、勢力拡大中のハリケーンが来たのさ」


    彼女は昨夜、アンドレが退がってからのことを話し出した。
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