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1763.3.24 #1
きょう、やっと、プロバンスから3しゅうかんぶりに、ばあやがかえってきた。
ばあやのまごの『アンドレ・グランディエ』をつれて。
アンドレは、ママンがなくなったから、ここへひきとられることになった。
ちち上は、ぼくのあそびあいてとして、アンドレをひきとることにおきめになったそうだ。
だけど、ぼくはぐんじんになるのだから、あそびあいてより、けんのあいてがほしいんだ。
だから、アンドレにはけんのあいてをさせる。
こころのなかできめたんだ。
ごごは、メヌエットのれんしゅうをした。
あした、ヴァイオリンのフレデリクせんせいがいらっしゃるから、しゅうちゅうしてひいた。
れんしゅうちゅうにまどのそとがさわがしかったから、きっとばあやがかえってきたんだとおもった。
ヴァイオリンをおいて、けんを2ほんもってへやをでた。
かいだんのうえから、エントランスをみると、おとこのこがいた。
ぼくのほうにきがつくと、口をぽかんとあけてみあげてきた。
きっとアンドレだとおもった。
けんをわたすと、ずごくおどろいてまっくろいひとみがどんぐりみたいにまるくなった。
なかにわにつれていって、けいこをはじめた。
アンドレのけんさばきは、へただった。
よけるばかりで、せめてこない。
そのうち、けんをすててにげだしたから、ぼくはあとをおいかけた。
あちこちはしりまわって、へとへとになって、ふたりでしばふにねそべった。
なんだかおかしくてわらったら、アンドレもわらった。
アンドレは、けんをもったことがなかったらしい。
ぼくのあいてをつとめるなら、ぼくとおなじくらいうまくならないと、といったら、
いっしょうけんめいれんしゅうするよ、とぼくのめをまっすぐみていった。
すごくうれしかった。
むねのなかに、あたたかいひかりがともった。
アンドレのひとみは、つきのないまっくらなよるみたいだ。
まっくろなよるは、ほしがきれいにかがやく。
アンドレのひとみも、まっくろなよるのほしみたいにきらきらしていた。
1763.430 #38
にっきをかきはじめて、きょうで2かげつになる。
ちち上から、つづりやぶんほうのべんきょうにもなるし、ねるまえにかいて、その日のはんせいをしなさいといわれた。
だから、ちち上のいいつけどおり、にっきをかきはじめた。
でも、ほんとうはいやだった。
たいしてかきたいことがなかったから。
でも、アンドレがきてからはにっきをかくことがたのしい。
かきたいことがたくさんあって、なんまいでもかけるんだ。
アンドレといっしょにいると、たのしい。
ときどき、けんかもするけど、すぐなかなおりする。
(たいてい、アンドレがさきにあやまる)
きょうは、やしきおくのもりのいけで、ちいさいさかなをつかまえたり、いしをとばしてあそんだ。
むちゅうであそんだから、キュロットもブラウスもぬれて、ばあやにしかられた。
アンドレは、ぼくよりしかられていた。
ふくがぬれることなんて、へいきなのに。
ばあやにきこえないように、アンドレのみみもとで、またいけであそぼう。とちいさなこえでいったら、アンドレはこまったような、なきそうなへんなかおをした。
1763.6.15 #84
きょう、はじめてにわのぼだいじゅの木にのぼった。
白い花をつんで、かんそうさせたらおいしいおちゃになるんだと、アンドレがいった。
アンドレは木のぼりがとてもうまい。
プロバンスにいたころ、ともだちとよくのぼってあそんだからだといった。
アンドレにはたくさんともだちがいたみたいだ。
アンドレがともだちのはなしをたのしそうにするのはすきじゃない。
なんだかむねがぞわぞわして、おもしろくないきもちになる。
どうしてだろう。
ぼくものぼりたいといったら、オスカルにはあぶないからだめだといった。
くやしくて、アンドレがするみたいに木のくぼみにあしをかけてみた。
いきおいをつけて、手をのばしたけどあとすこしのところでみきにとどかなかった。
でも、木の上にいたアンドレがぼくのうでをつかんで、ひっぱってくれたんだ。
みきにまたがると、花のあまいにおいがした。
においにつられて、はちがかおのちかくまでとんできてびっくりした。
花をつんで、下にぽとぽとおとした。
それから、木の上でいろいろはなしもした。
はなしにむちゅうになって、きがつくとひがくれだした。
アンドレがあわててさきにおりて、ぼくもおりようとしたら、とちゅうのところであしがすべっておちた。
下にいたアンドレの上におちたから、すりきずですんだ。
アンドレはしりもちをついて、おしりをいたがった。
アンドレがおしりをさすってあるくから、木からおちたことがばあやにばれた。
ぼくの手のきずをみて、すごくおどろいていた。
ばあやはかんかんにおこって、アンドレにあしたのおやつはぬきだっていった。
すこしかわいそうだな。
ばあやにはないしょで、ぼくのぶんをはんぶんあげようとおもう。
アンドレはくいいじがはっているから、すごくよろこぶはずだ。
1763.6.21 #90
ミニョンがしんだ。
きのうまで、あんなにげんきだったのに。
けさ、こやでつめたくなっていた。
ミニョンってよんでも、いつものようにたてがみをぷるぷるふるわせて、はなをすりよせてこない。
はをくいしばってがまんした。
りっぱなぐんじんになるには、かんたんにないてはいけないとちち上にいわれていたから。
だけど、なみだがあふれてきてがまんできなくてないた。
かおをあげると、アンドレもないていた。
そうしたら、すこしあんしんして、またなみだがでてきた。
アンドレが、ミニョンはかみさまにめされたんだ。
てんごくでしあわせにくらすんだ。
ぼくのママンに、てんごくでかわいがってくれるようにおねがいするから、だいじょうぶだよ、といった。
アンドレのママンにあったことないけど、きっとやさしいひとだとおもう。
だから、きっと、ミニョンはてんごくでしあわせにくらせる。
よるのおいのりのときに、ミニョンのこともかみさまにおねがいしよう。
もう、かなしむのはやめる。
1763.6.30 #99
きょうは、はは上といっしょにカモンドはくしゃくふじんのサロンにまねかれた。
ぼくは、おおぜいのきゃくじんのまえで、バッハのブーレをえんそうした。
すこしきんちょうして、24しょうせつのところで、おんていがずれた。
フレデリクせんせいに、そこはとくにしんちょうにひくようにといわれていたのに、うまくできなくてくやしかった。
それなのにみんな、とてもおじょうずでした。
とか、かんぺきなえんそうでした。とかいっていた。
ああいうのを『おせじ』っていうのだな。
サロンには、おなじくらいのとしのこどもが、なんにんもきていた。
ぼくのことを、かわったものをみるようなめで、とおまきにみた。
だれもはなしかけてこなかった。
たいくつだったから、おやしきにいたこいぬとあそんだ。
くりいろのまきげとくろいひとみがかわいかった。
あたまをなでてやると、しっぽをふってじゃれてきた。
ぼくのゆびをなめたり、かじったり、おなかをみせてころがったりした。
こいぬのまっくろいひとみをみていたら、きゅうにアンドレにあいたくなった。
アンドレにあいたいな。
はやくかえりたい。
そればかりかんがえていた。
やしきにもどって、アンドレをさがしたけど、じじょのリゼットとおつかいにでていた。
あしたのあさはいつものとおり、けんのけいこをする。
それから、アンドレにいうことがあるんだ。
そうしたら、また、ひとみがどんぐりみたいにまるくなって、おどろくだろうな。
あしたがたのしみだ。
風が吹いた。
南からの乾いた風だ。
邸奥の木々を揺らし、抜けるように青く澄みきった空から照りつける陽光が、木々の葉に反射し、煌めいた。
朝の訪れが嬉しいのだろうか、遠くでつがいのオトガラがしきりに鳴きあっている。
邸の庭園で、剣を合わせる音と掛け声が交差していた。
年端もいかない邸の次期当主と、その従者である少年。
剣の腕前は傍で見ても明らかであった。
しかし、少年は辛抱強く食らえついていた。
いつものようにお互い目で合図を交わし、稽古は終わった。
二人は、まだ息が上がっていた。
額に光る汗。
少しでも体を動かせば、汗ばむ季節になった。
二人して大樹の根元に腰を下ろす。
少年は大きく背伸びをすると、そのまま大の字に寝転がった。
夜半に降った雨に濡れた下草が触り、火照った体に心地良い。
生い茂った葉々の僅かな隙間から、零れる陽射しが眩しい。
少年が思わず目をつむった途端、
「今日が何の日か解るか?」
オスカルが唐突に質問した。
目を開けると覆いかぶさるように、蒼い瞳がじっと覗きこんでいた。
アンドレはあれこれ逡巡するが見当がつかなかった。
── 旦那さまや奥さま、ましてやオスカルの誕生日なら、朝からおばあちゃんが躍起になってパーティーの準備をしているだろうし…いったい何の日だろう?
アンドレは起き上がると、軽く頭を掻きながら、
「えっ…と… オスカルの誕生日…じゃない…よね…?」
しどろもどろに答えると、
「適当に答えてもダメだぞ。ちゃんと考えて」
案の定、すんなり見抜かれてしまった。
蒼い瞳が悪戯っぽく光っている。
頭を抱えて考えるアンドレにオスカルはしびれを切らして、小さく深呼吸をすると、
「今日はおまえがここに来て、ちょうど100日目なんだ」
── アンドレ
ぼくたちは、これからもずっと一緒にいよう。
約束だぞ。
うん!
約束するよ。
オスカルのそばにずっといるよ!
二人一緒なら、どんなことだって楽しい。
笑って、泣いて、けんかして、仲直りして、
いつでも一緒。
いつまでも…
Fin
こちらのノベルは、当サイトが2013/07/01に100万HITを迎えたお祝いにと、ゲスト作家のクリノスケさまがお贈りくださったものです。
クリノスケさま、“100”にちなむ可愛らしい物語をありがとうございます。
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