フランス旅行回想録 【 Voyage 】

こちらは管理人のフランス旅行記です。
旅行前の準備のこもごもや、旅行中にフランスからUPしていた雑文、帰国してからの回想録などを置いています。

★2013/5 回想録
旅行準備から現地UP版までは、かつて【Hermitage】というおまけノベルを集めたブログにUPしていたものからの転載。
回想録からが、この「Voyage」でUPしはじめたものです。
(今はクレーム等により一部公開していません)

また、この旅行記には、追随するコンテンツとして【Webアルバム】がございます。
アルバムでは、管理人の訪れた各地の画像が2000px以上の大判サイズでご覧いただけます。
ベルサイユ宮殿や大小トリアノン宮などのお部屋が、壁紙の模様や扉のひび割れまで見える詳細さでUPされております。
スライドショーにすることも出来ますので、ご覧になれる方はどうぞ。
全部で1183枚の写真がご覧いただけます。

★2015/4 回想録
2015/6/12よりUPを始めました。
こちらもWebアルバムをUP中で、ただいまは3410枚の画像がご覧いただけます。
最終的には、およそ5500枚程度のアルバムになる予定です。

 

    午前8時。
    バスを降りてスーツケースを押しながら、かなり久しぶりに来た羽田空港にきょろきょろする。
    前回私が来たときの羽田はまだ、国際線ターミナル拡張前だった。
    しかも私は、今まで羽田から海外に行ったことがない。そのため私にとって、今回の国際線出発ロビーは初めて観る風景になる。
    早くあちこち観てまわって、いつものごとく写真を撮りまくりたい。
    のだが。
    空港到着そうそうだというのに、時間は既にあまりなかった。
    私は普段から、時間にかなり余裕を持って動く。海外旅行でも国内旅行でも、日常の待ち合わせや予約などでも。
    今までのフランス旅行も、空港にはフライトの4~5時間前に着いていた。
    家から空港までが遠いので、万一空港に向かう高速バスが事故に巻き込まれたりなどすると笑えない。以前中国に行ったとき、バスが遅れに遅れて、チェックイン締め切りギリギリに着いたことがあった。そういった場合のリカバリーも加味して、かなり時間に余裕を持って、家を出るたちなのだが。
    「なに食べる?」
    「wi-fiレンタルを先にしないと」
    「でも、おなかすいたし」
    「……」
    のんきな発言に、黙る私。
    今回の旅行には同行者がいる。
    私にとって、初めてのヨーロッパ2人旅。
    「…先にwi-fiレンタルしとかないと、あとでバタバタするよ?ご飯食べに行ってからだと、またこっちに戻ってくることになるから動線悪いし」
    「そうかな」
    私の意見に、懐疑的な同行者。
    「wi-fi受け取って、スーツケース預けて、それからご飯食べに行った方が楽でしょ」
    「ゆずさんは心配性だからなぁ」
    同行者はかなり余裕でいるが、実のところ私は、空港へのバス予約をした段階から時間に不安を感じていた。こんなにぴったりな予定を組んで、大丈夫なんだろうかと。
    この日、高速は滞りなく流れ、事故もエンジントラブルもなく、バスは予定通りに空港に着いた。
    それでも、あと2時間ちょっとでフライト。空港での2時間は、そんなにゆっくり出来るほど長くない。
    「先にレンタル行くよ」
    私は空腹を訴える同行者に背を向け、先に立って歩き出す。


    グローバルwi-fiカウンター

    レンタルカウンターで少し並び、wi-fiを借りる手続きをする。
    そして出発ロビーへ戻ると、まずはチェックインを済ませにJALのカウンターへ向かった。
    預け荷物と、機内持ち込みの手荷物。それから今回は、もうひとつ持ち込みたい荷物がある。
    それに関しては事前にJALへ問い合わせてあり、チェックインカウンターで大きさの確認をすることになっていた。
    「これなんですが」
    私がカウンターで大振りなバッグを差し出すと、担当のおねえさんはもう1人職員を呼んだ。
    奥の方で、計量の済んだスーツケースがゴロゴロ流れていくベルトで作業をしていたおにいさんが、カウンターに出て来くる。
    「こちら、機内持ち込みご希望だそうで」
    2人は私の渡した荷物を指し、話し始めた。
    「見た感じ大丈夫そうな…」
    「大丈夫だと思うけど」
    そこで私も、「機内持ち込み可能サイズということで買ったバッグなのですが」などと説明し、そしてこのバッグの中身と持ち込みたい理由を話した。
    「そういうことでしたら、機内にお持ちになられた方が安心ですね」
    「測ってみましょう」
    「そうですね」
    おねえさんがメジャーを出して、バッグの3辺を測る。
    「大丈夫ですね。持ち込み出来るサイズに収まっています」
    「ああ、よかった」
    バッグを買うとき、機内持ち込みが出来ることを目的に選んだのだが、商品レビューには「持ち込みサイズということだったのに持ち込めなかった」という書き込みもいくつかあったので、多少は心配していたのだ。
    チェックインを済ませ、スーツケース2つを預けてしまうと、私たちはグッと身軽になった。
    「さて、ご飯食べに行くか」
    「あんた、どんだけ腹減ってんの」
    同行者は食事をする気まんまん。
    お食事どころへ向かいながら、私は初めての羽田国際線ロビーをきょろきょろと見回した。





    季節は秋。
    紅葉の紅が目に鮮やかな演出のされた出発ロビーをうろついてみる。












    おもしろTシャツの並んだお店

    これを着ても、江戸の町人にも日本男児にもなれないと思うのだが、非常に購買意欲をそそられる。
    これが出発でなくて到着だったら、きっと買っていた。
    どのお店を見ても和風のものがきれいに、あるいはちょっと面白く並べられていて、お江戸テーマパーク風。
    一軒一軒丁寧に見て歩きたい気持ち満載なのだが、時間がない。
    空港内と店舗が面白くて、テンション上がって写真を撮りまくりたい私と、そういうことには全然興味のない同行者。
    「あなた、何も食べられないんでしょ?」
    「まだ陽が高いからねぇ」
    「ゆずさんは昼間は食べらんない人だからなー」
    「てか、そんなにおなかすいた?あと1時間ちょいでフライトだよ?」
    まだセキュリティゲート前。もし出国手続きが混んでいたら、搭乗に遅れかねない。
    こんなにタイトな時間になっているのに、貴様、それほどしっかり飯を食うと!?
    時間に細かい私は、そんなに悠長な気持ちではいられない。けれど同行者のいる旅行では、譲り合わないといけない場面も必ずある。
    搭乗ロビー(なか)で軽食取るんじゃダメなの?」
    「だって腹減ったし」
    少ない時間の中、空港内も観ておきたい私と、どうしても出発ロビーでご飯を食べたい同行者。
    結局私たちは、いったんバラけることにした。
    「お店に入ったらメールして。少し写真を撮ったら、そこに行くから」
    同行者は極度の方向音痴。このタイトな時間で迷子になられたら、JALの地上職員を無駄に走らせることになる。
    「もし食べ終わっても、絶対お店から動かないでよ?」
    そんな話をしながら、飲食店が並んだ一角で一時解散した。







    これらの和風な造りは“江戸小路”と名づけられていて、江戸をテーマにしたショップ巡りを楽しめる。
    海外旅行のためだけではなく、空港自体の観光やデートスポットとしても楽しめるように、というコンセプトだそうで、江戸時代の街並みを再現しており、フロア中央には江戸舞台というイベントスペースもあるらしい。
    私は時間がなくて行けなかったのが、もしまたここに来ることがあったら、ぜひその江戸舞台を観てみたいと思う。


    はねだ日本橋



    このはねだ日本橋は全長25mの檜造り。本物の2分の1サイズで作られているそう。
    橋の左手に描かれているのは「江戸図屏風」を切り取ってアレンジしたもの。お江戸が好きな外国人旅行者が見たら、橋と江戸図に無条件で嬉しくなってしまうんだろうなぁ。私がパリでどの風景を観ても、18世紀に思いを馳せるように。

    私が慌しく江戸小路を観てまわり、飲食店街に戻ると、同行者はちょうど食べ始めたところだった。


    つるとんたん

    つゆのないサラダうどんをチョイスしたのは、ササッと食べられるようにという同行者の配慮なのだろう。


    展望デッキ

    食べ終わった同行者と展望デッキにより、駐機場の様子を眺める。
    1人旅のときは、たいがい出国前に展望デッキから友達に電話をしたり、サイトにいらしてくださっているお客さまの中で、特に親しくお付き合いさせていただいている方々へメールしたりと、そんなふうに過ごすのだが、やはり同行者がいると勝手が違う。「行ってくるよー」と連絡をしたい方々のことを気にしながらも、携帯を取り出すことは憚られた。
    フライトの時刻にそう余裕もないため、5分ほど飛び立つ飛行機などを眺めてから、出国手続きに向かう。
    幸いセキュリティゲートは空いていて、出国審査のカウンターもガラガラ。パスポートに出国のスタンプをポンと押してもらって、搭乗ゲートに向かった。
    「ここはもう日本ではないんだよね」
    「そうだねー。出国手続きが終わったからねー」
    この台詞は互いに棒読みで、なぜかというと、海外に行くときに出国手続き直後にこの会話を交わすのは、私たちの20年近くになるパターンだからだ。
    初めての海外はオーストラリア。元同僚がワーホリしていたシドニーを訪ねた。そのときの同行者も同じ人物で、此奴(こやつ)と一緒に海外に行くのは10回以上になると思う。
    ただ、今回の旅行がその同行者…って、いちいち面倒くさいので“連れ”と略してしまうけれど、今回の旅行が、連れにとっては初ヨーロッパになる。
    久しぶりの搭乗ロビーの空気にキョロつく連れに、私は声をかけた。
    「何か飲み物を買っておきたいんだけど」
    「機内で出るのに?」
    「いちいち多いんだよ、アテンダントの出す量は」
    「“少なめで”って言えばいいんじゃないの?」
    「“少しにしてください”って言っても、いつもなみなみ注がれるんだわ。あの小さいテーブルの上に、飲みきれない飲み物がいつまでもあるの、いやじゃん。倒しそうで」
    そのため私は、搭乗前にペットボトル入りのドリンクを買っておくことが多い。好きなときに好きな量だけ、気を使わずに飲みたいから。
    そんなことを言いあいながら、私たちはずんずんとロビーを進んだ。
    私にも連れにも、免税店に興味はない。
    私は飛行機酔いしやすいので、ドリンクの他にミント系のガムやキャンディなども買っておこうと、適当なお店を探しながら歩いていたのだが
    「どうする?」
    気づけば搭乗ゲート前に着いてしまっていた。
    乗る予定の便は、すでに優先搭乗が始まるところ。
    本当にギリギリの時間で動いていることにヒヤヒヤしながら、連れの意見を聞いた。
    「もうちょっと先まで行けば、ドリンク売ってるお店はあると思うけど。まだ優先搭乗だし」
    「ゆずさんはどうしても、ドリンク買っておきたいの?」
    「いや、そこまでどうしてもってわけじゃないけど」
    極端に睡眠時間の短い私は、たぶんみんなが寝ているときでも起きている。そんなときに、少しばかりの水が飲みたいぐらいのことで、アテンダントを呼ぶのがいやなだけだ。
    「……」
    もう始まっている搭乗。
    トイレにも寄っておきたいし。
    ちょっとだけ考えて、私はドリンクを買いに行くのはやめ、トイレを優先させることにした。
    気流の関係で、ベルトサインがなかなか消えないこともある。そんなときにトイレに行きたくなったら最悪だ。いいオトナが漏らすわけにはいかないし。
    トイレはどこかなーっと。
    そんなふうに私が目線をさまよわせたとき。
    ニコニコッ!
    JALのおねえさんと目が合った。
    なんとなく会釈する私と、なにかピンときたようなおねえさん。
    「Sさまですね。お待ちしておりました」
    「…え?」
    確かに私はSさまなんだが。
    「…ああ!そういうことか」
    なんで私がSだと判るんだろうと思ったら、私たちの手にした機内持ち込みバッグの件について、チェックインカウンターから搭乗カウンターへも連絡がいっていたからだった。
    おお、JAL!私ごときにお気遣いありがとう!!
    JALのおねえさんは私のバッグを確認してから、「どうぞこちらから」と優先搭乗のお客さんが流れていく列へ私たちを案内してくれた。
    え?優先搭乗?まじか。
    内心そんなことをつぶやきながら、エコノミーのくせにファーストクラスやビジネスクラスのお客さんに混ざり、機内へと乗り込んでいく私たち。
    優先搭乗のために、機内の通路が混雑することはない。大きなバッグを持ってもスイスイ通り抜けられたのはよかったが、ビジネスのゆとりある座席を見ながらエコノミーに向かうことには、少々の寂しさも感じた。
    (このあたりのJALの対応などについては、“どうしてそうなったか”を少しあとの章で詳しく触れる予定なので、そちらをご覧いただければ幸いです)


    機内食



    A or B。
    選択の機内食も、連れがいるとどちらも選べる。いつもは“どっちにしようかな?”と少しは考えるところだけれど。
    (そして食事のときにサーブされるドリンクは、「ほんとに少しでいいんです」と言ったけれど、やっぱり普通に注がれた…)


    おなじみ、デザートのダッツ


    機内に用意された軽食とドリンク

    ここは飲み物やお菓子、キャンディなどが「ご自由に」と用意された場所で、機内に何か所かある。私は消灯中にはごくたまに席を立ち、ここへ来て飲み物を取ったりお菓子をつまんだりしていた。


    機内食2回め

    前回エアモスで楽しませてくれた2食目の機内食、今回は吉牛。


    たまごはすでに溶かれてパック入り


    英語と日本語での作り方図

    初めて同行者のいる東京→パリ間は順調で、定刻通りにシャルル・ド・ゴールに到着した。
    さて。
    初めてのパリ2人旅。今回は、ベル宮に今までとは少し違う目的がある。
    すべて恙無(つつがな)く進みますように。
    そして、連れがパリを好きになってくれますように。

    機内持ち込みサイズいっぱいに大きなバッグのある私たちは、1番最後に座席を立った。
    「よいご旅行を」
    ちょっとした都合上でアテンダントさんたちと少しだけ立ち話をしたあと、私たちは機内を出た。
    今までのフランス旅行と同じく、パリ市内までのアクセスは決めていない。
    約半年ぶりの2Eに大きな変更はなかったようで、私は迷うことなく空港内を進んだ。
    イミグレの列に並びながら、これからの段取りを頭の中で復習する。入国審査が終わったら、まずは到着ロビーにあるチケットショップへ行かなければ…
    人を連れているということで、私はこれまでの1人旅とは違う緊張を感じている。
    そして、連れは連れで違う緊張感を抱えていた。
    「海外、久しぶりだから緊張する」
    入国審査の列、連れは半笑いにそう言った。
    「大丈夫だよ、パスポート見せるだけで終わるから。たぶんなんにも聞かれない」
    「そんなもん?」
    連れはこの旅行のために新たにパスポートを取ったので、どのページも真っ白。
    「不審なほど短期間に出入国を繰り返してなきゃ、くどくど質問なんてされないよ」
    「ふーん」
    以前一緒にタイに行ったとき、連れは帰国の成田の入国審査でしつこく質問をされたことがある。そのため連れは、テロ対策が強化されているフランスの入国審査が、かなり厳しいものだろうとの先入観があるようだった。
    ちなみに成田でくどくどと質問された理由は、古びた大きなダンボール箱を持っていたからだ。中身は自分へのお土産用に買ったタイ舞踊の衣装と装飾具だったのだが。


    ↑こんなの

    この中に、怪しげな粉や草を隠しているのではないかと疑われた。
    けれどその経験からくる心配はまったく杞憂で、連れの初フランス入国審査は、なんの厳しさもなくあっさり終わった。




    上の画像はイミグレを過ぎて、到着ロビーへ出たところ。この付近にレンタカー手配のカウンターやチケットショップなどがある。

    ちなみにここはターミナル2のE。ANAはターミナル1を使っているので、もしこの旅行記を読んで、パリ旅行の参考にしようとお考えの方がいらっしゃいましたら、ご利用の便を確認されてください。
    シャルル・ド・ゴール空港は未だ拡張工事が続いており、パリ在住の人でも「ロワシーはいつ来ても変わっている」と言うぐらい、空港内の様子が変わることがあります。私の経験からも、空港内の案内表示が統一されていないことなどがありました。情報は最新のものを、ご自身でチェックしてください。
    ちなみに“ロワシー”というのは、シャルル・ド・ゴール空港の愛称だ。オペラ座とシャルル・ド・ゴール空港を結ぶバスも「ロワシーバス」と名付けられていて、パリでは“シャルル・ド・ゴール空港”と言うよりも、“ロワシー”とか“ロワシー空港”と言った方が通じやすいかもしれません。

    私たちはまず空港内で、パリミュージアムパスを買うつもりでいた。
    (ミュージアムパスについては【こちら】
    滞在日数とまわる予定の場所を考えると、今回の旅行では、ミュージアムパスはむしろ損になる。けれど、美術館などでチケットを買うためにいちいち行列に並ぶことと、混雑した中でお財布の出し入れをする面倒(観光客を狙ったスリやひったくりは、依然多いので)を考えると、「パスでいいんじゃね?」ということで話は落ち着いていた。
    なにより同行者は初パリ。マイナスになるような思い出は作りたくなかったし、その可能性の芽があるならば、はじめから摘んでおきたいというのが大きな理由だった。
    「パス、あればいいけどね」
    「そうだねー。前回、オルセーのチケットを買おうとしたときは売り切れてたからねぇ」
    そんな話をしながら、到着ロビーの小さなホールを左に出る。
    チケットショップのカウンターはすぐ見えるぐらい近いので、私はまず連れを、ショップの正面のガラス張りの壁に連れて行った。
    「パス買ってくるから、荷物見ててね」
    実際のところ、英語なら連れの方が出来る。語彙も豊富で、テストも私よりずっと成績がよかったらしい。けれど連れは英会話が苦手で、しかも人見知り。日本人が相手でも、他人とは極力しゃべりたくないタイプなので、私が「ちょっとパス買ってくるわ~」と気軽に言ったことに、ホッとしたようだった。
    「えくすきゅぜも?」
    「Oui、Madame」
    私がカウンターで声をかけると、若そうなおねえさんがにこりと小さな笑顔を見せた。
    挨拶だけはフランス語で、あとは英語でミュージアムパスが欲しいことを伝えると、2日券・4日券・6日券すべてあるとのことだった。
    「パス、あるって」
    私がそう言って振り返ると、心配そうにしていた連れは“よかった”といった感じでうなづいた。
    「何日券がいいですか?」
    さっくりと券種を聞いてくるおねえさん。
    「…え”?日本語出来るんですか?」
    「日本語、少し話せます」
    カウンターにいたおねえさんは、日本語が出来る人だった。
    「ちょっ、来て!」
    私は連れを呼んだ。
    「おねえさん、日本語出来るんだって」
    私がそう言って連れを呼ぶと、人見知りの連れでも、外国で日本語を話す人に距離を近く感じたのか、いそいそとやってきた。
    「なんで?なんで日本語話せるんですか?」
    「勉強しました」
    「すごーい。日本語上手いですね」
    「ありがとうございます」
    テンション上がって、大喜びの私。自分でも“単純だなぁ”と思う。
    けれど、数ある国と言語の中から日本に興味を持ち、日本語を身につけてくれた人に出会うと私は本当に嬉しくて、ただただ単純に尊敬してしまう。
    今までの海外旅行で、こんなふうに日本語の出来る人に出会って、今も手紙や絵葉書などのやり取りをしている人もいるので、出会いとは不思議なものだと思う。


    買い求めた4日券

    さて。
    空港で無事ミュージアムパスを買えた私たちは、いよいよパリ市内に向かうことにした。
    「何で行く?オペラ座までのロワシーバスが1番安いよ?普通のバスで、荷物の積み込みとかは自分でやるけど。エールフランスバスなら、シートも良くて荷物も貨室で預かってくれるんで快適だよ。ロワシーバスよりちょっと高くて、凱旋門まで行ける。他の選択肢だと、電車かタクシーになるけど」
    飛行機の中でも話したことをもう1度言うと、連れはタクシーを選んだ。
    もともと連れは市内までの移動について、空港についてからの天候や、自分の疲れ具合を考えて決めたいと言っていた。そして、着いてみたらやっぱりちょっとお疲れ気味で、ホテルまで直で行けるタクシー一択に気持ちが傾いていたようだった。
    空港からタクシー。
    私の今までしたことのない選択なので、これについて私は案内のしようがない。
    空港内のタクシーの表示を見ながら進んで行くと、こちらから聞かなくても空港職員が「タクシーならあっち」と声をかけてくれたので、乗り場までは簡単に行くことが出来た。
    タクシー待ちの行列は出来ていたが、待機台数が多かったのと、私たちがミュージアムパスを買っていた間に混雑のピークが過ぎたようで、順番は待つほどでもなかった。
    「あなたたちはこの車、そこのあなたはこっち」といった感じで、待機しているタクシーに客を振り分けている人がいたので、私たちもその指示に従った。
    「ぼんじゅー」
    タクシードライバーに挨拶すると、ドライバーは私たちの荷物を受け取って、慣れた勢いでトランクにぶっこんだ。
    「Bonjour, Madame」
    「マレへ行ってください」
    車に乗り込み、フランス語でざっくりした行き先を告げる。あらかじめ書いておいたホテルの住所のメモも渡した。
    「オテル・ド・ヴィルの近くなんだけど」
    「マレ… っと。ああ、判りました」
    ドライバーはカーナビをセットして、納得した様子でメモを返してくれた。メーターもきちんとセットしていたので、そこで私はいったん安心し、シートに深く座りなおした。
    1人旅なら、何があってもいい。道を間違おうが、ドライバーともめようが。
    でも同行者がいるとなると、すごく緊張する。初めてのパリがいい思い出になるように。この街を好きになってくれますようにと。

    この日、私たちが空港からマレまで移動した料金は、60ユーロちょっとぐらいだったように記憶している。時間的には50分程度で、2015年ごろであれば、これは料金的にも時間的にもまぁまぁ普通の範疇だと思う。
    今はちょっと変わっていて、2016年春から空港⇔パリ市内間のタクシーは固定料金になった。
    スーツケース等の大きな荷物の加算もなくなり、ド・ゴール→パリ市内は50ユーロか55ユーロのどちらかになっている。
    詳しくは【こちら】
    また、市内の主要ホテルなどをまわる予約制の乗り合いバスなどもあるので、ホテルの場所や空港への到着時間などに合わせて、移動手段はますます便利で安く、安心出来るものになってきているように思う。

    「あ、バスティーユ広場だ」
    タクシーがパリ市内に入り、少しずつ記憶にある風景が見えてくる。
    「もうすぐ着くよ」
    私は連れに声をかけ、お財布を取り出す。海外旅行用のお財布には、半年前のフランス旅行でのユーロを入れっぱなしにしておいた。そのため小額のお札も小銭もじゅうぶんにあり、タクシーの支払いもしやすかった。
    今回の滞在は、前半がマレのホテル。後半はオペラ座近くのアパルトマンにしてある。
    バスティーユ広場のラウンドアバウトからいくらも走らないうちに、タクシーはリヴォリ通りとヴィエイユ・デュ・タンプル通りの交差点近くで止まった。
    車窓からは、ホテルの小さな入り口が見えている。
    その間口は、本当に小さく狭い。一見すると、可愛らしいブティックのような外観をしている。
    私が前回の旅行記(2015/4のもの)でUPしているマレのさまざまな歴史的建造物や美術館やヴォージュ広場、パリ市庁舎なども徒歩圏内で、メトロ1号線のサン・ポール駅にも近い。200mほど歩くとセーヌ川、そしてサンルイ島・シテ島が望め、観光にもショッピングにも、ただ散策するだけでも楽しめる。非常に良い立地にあるプチホテルだ。
    17世紀あたりの貴族の屋敷が多くあった地区なので、ただでさえ歴史を感じさせるパリ市内の中でも、マレは特に中世の趣が感じられる。
    私はこのホテルがずっと気になっていて、今回の旅行では「泊まるのは絶対にココ!」と、早くから予約をしていた。
    このホテルのおもしろい特徴は、いわゆるフロント、レセプションカウンターがないところだと思う。
    入り口のドアを入ると、そこは暖炉の置かれたリビングルームになっているのだ。
    さて、期待通りのホテルなのか。
    この旅の本格的な幕開けにこころ逸りながら、私はタクシーを降りた。


    【煌くエッフェル塔とパリの夜景】へつづく
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