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【Mille mercis】(1000拍手御礼)
UP◆ 2011/4/19その夜、アンドレが恋人のためにワインの支度をしていると、オスカル付きの侍女が彼のそばに来て忠告した。
「アンドレ。今日はワインじゃなくて、上等なブランデーにした方がいいわ。そうでなければ何か、デセールでもお付けして」
「あれ?どうしたの?オスカル、まだ湯浴み中じゃないのか?」
今日の湯浴みは、この侍女が世話係だったはず。
「ええ。今日のお湯浴みは私がお手伝いしたんだけど…
ね、アンドレ。私、最近オスカルさまに特別な男性ができたんじゃないかと思うの」
唐突にそう言われて、アンドレはワイングラスを落としそうになった。
バレた?
まだ恋人同士になったばかりなのに、もう!?
「え…と、それ…は」
言葉に詰まるアンドレに、彼女はまったく気づかない。自分が1番乗りかもしれないスクープを、とにかく誰かに話したいようだ。
「今までオスカルさまのお湯浴みってごく淡白だったのに、この頃なんだか違うのよね」
淡白な湯浴みって、なんだそりゃ。
いくら幼なじみで兄弟同然だったとはいえ、入浴中のことまではアンドレも知らない。
「習慣として、ただこなしているようなお湯浴みだったけれど、最近はとても念入りなの。
香油なんかも私たちに任せっぱなしだったのに、この頃はご自分で選んでいらっしゃるのよ。それは嬉しそうに。
どう考えても、あれはご自分のためというより、それを愉しむ殿方のためって感じなのよねぇ」
うぅ、バレてる。
そう。
例えば昨夜の2人…
「お嬢さまは今夜、なんの香り?」
「ひみつ」
「教えてくれないの?」
「ん~。おまえの好きな香り」
「それはどうだろう。俺が好きかどうかは、調べてみないと判らないんじゃない?」
「…待っ…アンドレ…ダメ‥だ‥
………。……。……‥。もう判っただろ」
「まぁね。とてもいい香りだと思うよ。でも、好きかどうかはもう少しよく調べてみないと」
「ふふ…ばかやろう」
ああ、はい。すみません。
確かに俺が愉しんでます。
侍女の観察眼に、彼は半ば感心した。
でも、俺だけが愉しんでるわけじゃないし…
そんなことを思ったら、白い肌の熱がふっと体に甦り、彼は一瞬、恋人でいっぱいになった。
「でね、アンドレ。…アンドレ?」
「え?ああ、聞いてる聞いてる」
ほんの2~3秒、イタい回想をしていたアンドレは、意識的に表情を引き締めた。
やばいやばい。しっかりしないと。
露呈すれば2人は引き裂かれ、今度こそオスカルは結婚させられるだろう。父である将軍の権力のもと、適当な貴族と、無理やりにでも。
「でね、今日はどの香油になさるのかをおうかがいしたら、オスカルさまったら急に不機嫌になられて。髪も濡れたまま、お部屋に戻ってしまわれたのよ」
アンドレは心中ため息をついた。
オスカル、やっぱりまだ怒ってんのか。
帰宅する馬車の中で、ささいな彼の発言から、2人は壮絶な言い争いをしたのだ。
もっとも言い争いといっても、オスカル・フランソワが一方的にキレていただけなのだが。
「私に対してあんなに不機嫌なんだもの、あんたには容赦ないと思うわ。避雷針がわりに、せいぜいいいお酒を用意することね」
「ご忠告、感謝するよ」
アンドレは素直に、ワインを少し良いものに変えた。
いつもなら、彼女の好きな重めの赤をチョイスしているのだが。
「今、湯浴みから戻ったばかりなら、たまには冷えた白がいいか」
ちょうど贈り物として届いていたプチフールがあったので、それもいくつか皿に乗せた。
さて、こんなものでお嬢さまのご機嫌は直るかな。
彼は恋人の部屋へ向かった。
濡れた髪もほったらかしで、夜着姿のオスカル・フランソワは、長椅子の上で片膝をついている。
裾が乱れてえらいことになっているが、そんなことはどうでもいい。
あのやろう、ふざけやがって。
彼女の機嫌はじゅうぶん斜めなままだ。
今日だってまだ一桁だし、今までを全部足したってそんな…なのに。
それをあいつ!
否が応でも、彼女の頭の中では馬車での会話が思い出される。
その日の勤務はトラブルもなく残業もなく、ごく平和に1日が過ぎた。
晩餐のあとは早めに湯浴みをして、取り寄せたばかりの香油を試してみようかな。
帰宅の馬車が走り始めたときには、むしろ彼女は上機嫌だった。
新しい香りにおまえは気がついてくれるだろうか。
宵闇の主のような、私の黒髪の恋人は…
そんなことを思っていたら、自然と彼を見つめていたらしい。
逆に彼に見つめ返されて、自分が彼を見つめていたことに気づいた彼女は顔を伏せた。
…べ‥別におまえに見とれてたわけじゃないし。
ただなんとなく考えごとをしていたら、たまたま目線の先におまえがいただけだし!
顔を伏せていても、彼の視線を肌にちりちり感じる。
何を考えていたか、薄皮をはぐように読まれている気がして、頬が熱くなってくる。
かっ‥考えごとっていったって、私は新しい香油のことを考えていただけだしっ!
だからといってそれでおまえと…とか思ってるわけじゃないからな!断じて!!
「オスカル」
不意に呼ばれて、心臓が止まりそうになった。
「はいっ?」
はい…って、ああ、何をうろたえてるんだ、私は。
心なしか彼が薄ら笑っているような気がする。
ちくしょう。なんだか腹が立つ。
主導権を握られまいと、彼女は強気を取り戻し、しっかり彼を見返した。
けれど。
するりと隣に移ってきた彼に、強引に顔を上向かされたらもうアウトだった。
…あ…ちょっと、その
彼VS彼女。
至近距離で見つめあったら、彼女に勝てるわけがない。
緊張感にもうどうしようもなくなって目を閉じると、彼女に長いくちづけが与えられた。
多少抗ってみたところでそれは無意味で、くちづけが解かれると、彼女は自分から彼の胸に頬をつけていた。
「ななかいめ」
ぼんやりとそうつぶやく。
「ん?」
朝、侍女たちの目を盗んで2回。
出勤の馬車の中で2回。
誰もいない司令官室で1回。
薄暗い廊下の片隅、気配を殺して…
「だから7回目」
そう言った声は彼女のものとは思えぬほど甘く。
それなのに!
あのやろう、なんて言ったと思う?
「俺には1000回目ぐらいかな」
そのときの衝撃をリアルに思い出して、彼女はまた怒りを新たにした。
おまえが娼館で遊んでいたのは、なんとなく知ってる。
つきあっているっぽい女が、いるようないないようなときもあったし。
いくら私だけを思っていたと言っても、おまえだって男だから、ソレはソレってことは私にも理解できる。そのことに関してガタガタ言う気はないし、だいたいその原因は8割がた私にある。おまえの気持ちに長いあいだまったく気づかなかったばかりか、想いを告げられてからも、ずいぶん放っておいたのだから。
そのことを考えると、彼女自身だって悔しく思う。
もっと早くおまえに応えていたら…
まったく時間を無駄にしたものだ。
しかし!
だからといって「1000回目」なんて無神経なせりふ、普通言うか!?
どこの女たちと、どれだけナニをしようが、私の知ったことではないがな!!
幸い私たちは最後の一線までは…だし、おまえなんかにすべてを許していなくてああ良かったなばかやろうっ!!
彼女が相当にいらついてきたそのとき、扉を叩く音がした。
「俺だけど」
だからなんだよ。
彼女が返事もしないでふてくされていると、当たり前のようにアンドレが入って来た。
「まだ怒ってんのか」
「怒る?私が?心当たりなんてちっともないけれど?」
「そりゃ俺の言い方も悪かったけどさ、おまえも悪いよ」
は?私が悪いだと?
開き直る気かおまえ!
彼が他の女と1000回くちづけしていても、8割がた自分に非があると思っていた彼女だったが、そんな気持ちはぶっ飛んだ。
いうに事欠いて、私が悪いとは貴様!
「ほぉ…、私が悪い、か。ふぅん。悪い、ね。
私のおかげ、の間違いじゃないのか?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。私のおかげで1000回、いろんな女とくちづけできただろう?」
「あのなぁ、1000回って」
「ああ、すまない。そのうちの2、300回は私だったな。申し訳ないけれど」
軽快ないやみを繰り出す彼女に、アンドレはお手上げ気分になり、仕方なくテーブルにワインを並べ始めた。
その様子を彼女は目の端で見ていたが。
あ、白だ。珍しい。
普段は渋みの効いた赤を好む彼女だけれど、ちょうど今夜は、甘口の白が飲みたいと思っていたのだ。
新しく用意していたはずの、優しい香りに合わせて。
「すごい、アンドレ。どうして判るんだ?今日私が白を飲みたいと思ってたこと」
それにプチフールも用意してある。
晩餐のとき、給仕する彼が目に入るたびにいらいらして、ろくに食事が取れなかった彼女は、けっこうお腹がすいている。
気が利くというか…
「そんなに私のことが判るのに」
あんなことを言うなんて。
馬車の中からつい先ほどまで、威勢良くキレ続けていた彼女は黙ってしまった。
なんだかやたらと寂しい気持ちになってしまったのだ。
心持ち、視界がにじんできた気がする。
ああ、やだやだ。
こんなふうになりたくないから、キレまくっていたのに。
おまえが過去に誰とどれだけくちづけしたって、私には何も言えないじゃないか。
顔を見られたくなくて、彼女は乱れた夜着のすそをずるずるさせたまま、窓辺に立った。
無駄にまばたきを繰り返して、目の潤みをごまかす。
アンドレは彼女の背中をしばらく眺めていたが、ゆっくり近づくと耳もとで言った。
「泣くことなんかないのに」
「泣いてない」
予想通りのかたくなな返事。
でもその表情は、闇の窓硝子に映っている。
「おまえさ… 俺とくちづけするのを想像したこと、ある?」
「え?」
意外なことを言いだしたアンドレに、彼女は思わずふり返った。
「ないだろう?」
「…ない」
彼は、指先を彼女のくちびるに触れさせた。
「俺はずっと想像してたよ。おまえが笑っていても、怒っていても、いつもこのくちびるに触れたかった」
兄弟同然にまとわりついてくる顔の近さ。
くたくたになるまで、一緒に剣の稽古をしたあとの汗の匂い。
他の男を見つめる熱を秘めた瞳。
いつだって、そのままくちづけてしまいたかった。
「でもそれは許されなかったから、いつも心の中だけでくちづけてた。100回も200回も、1000回も」
「1000回って…アンドレ」
彼は照れたような、気まずそうな顔をする。
心の中で1000回くちづけたなんて、一歩間違えばただの変態だ。
「そう。全部おまえ」
「だっておまえは」
言いようがなくて彼女は言葉に詰まる。
何が言いたいのかは、簡単に判ること。
「あのさぁ、オスカル。おまえ、俺がどんだけ遊んでると思ってるんだ?」
「し…知るか、そんなこと」
「そりゃ確かに多少は遊んでたけどさ。それだって必要最低限で」
必要最低限!?
妙にリアルな言いまわしに、彼女はどぎまぎする。
「でも、くちづけはおまえだけだから」
「?」
「やることはやれても、なぜかくちづけだけはできなかったんだよなぁ。だって」
アンドレは彼女の額髪をかき上げると、瞳を寄せた。
「こんなふうに顔を近づけて」
その距離はくちびるが触れる寸前。
いつもなら目を伏せてしまう彼女だけれど、つけこむような黒い瞳に射抜かれて、目をそらすタイミングを見つけることもできなかった。
「息がかかるぐらいに」
本当に彼の息づかいを間近に感じ、彼女の鼓動は高まる。
くちづけ…され‥る?
目線を拘束され、まばたきも許されない。
初めてのくちづけでもないのに、どうしてこんなに緊張するのか。
「くちびるが触れあって」
髪をかきあげたアンドレの指が、耳もとを掠め。
「それがだんだん深まって…」
首筋まで滑り降りる。
そのままゆっくり鎖骨をたどり。
「やがて…が‥絡んで…」
くちづけするのかしないのか、長く続く触れそうで触れないくちびるの距離に、彼女の心はギリギリまで追いこまれてしまった。
もういっそのこと…‥早く‥して。
彼女がアンドレのシャツをぎゅっとつかむと、彼はすいっと体を離した。
「こんなこと、愛してない相手にできるか?」
一転して、まったく普段通りの顔を取り戻し、彼は涼しく言った。
当たり前だろ?とでもいうようなアンドレのその表情。
「だけど、だって」
追いつめられて高められた胸が苦しくて、彼女は言葉がうまくつなげなかった。
ずるい、この男。
私をこんな気持ちにさせておいて、放りだすなんて。
「そんなこと、私は知らなかったし…」
言ってくれなきゃ判らないし。
私だけだったって言ってくれなきゃ。
…私だけって…言って…
思わずくちびるから出てしまいそうになった言葉に、自分で驚いた。
何を考えているんだ私は。
本当に最近どうかしている。
過去のおまえまでも、独占してしまいたいなんて。
「俺は何度も言おうとしたよ。でも、おまえが言わせなかったんだろ」
「それは……そう‥だけど…でも‥あんな言い方‥」
キレまくっていたときと違い、急に口ごもり始めた彼女に、アンドレはピンときた。
「オスカル。おまえ、顔、真っ赤」
「!」
うそだ。そんなはずない。
ヴァランタンに彼に指摘されてから、彼女は顔に出ないようにすごく気をつけていたのだから。
だって。
…おまえを全部、独り占めしたい…
こんな気持ち、まるごと彼に知られたら恥ずかしくて耐えられない。
それなのに。
「くちづけされる、と、思った?」
アンドレは、デリケートなところをぐっさり突いてきた。
「おもっ!…てないしわたしはべつにはやくしてほしいなんてひとっつもっっ!!」
しどろもどろなクセに、早口でそう言った彼女に、彼は苦笑する。
はやくしてほしい、か。
やっぱりね。
勤務中は見事なぐらい今まで通りなのに、2人きりになると、とたんに防戦一方になる彼女。
本当におまえは、俺の前では顔に出まくりだな。
「…うそだよ」
「は?」
「顔が赤いなんてうそだよ。たった今、本当に真っ赤になったけど」
「き…さま!」
何か言ってやりたいけれど、どんどん熱っぽくなる頬に何も言えない。
「で、おまえとしてはどう思うの?」
「どっ…どうって」
「俺の妄想1000回のくちづけ。迷惑だった?」
そう言いながら、さりげなく彼女を抱きよせる。
「め‥いわく‥なんかじゃ」
ああ。顔だけじゃなく胸元まで赤いね、オスカル。
着崩れた夜着が、彼の目線からはどう見えるか、彼女は判っているのだろうか。
アンドレは青い瞳をのぞきこむように額をつけた。
まつげが触れそうなその距離に、またしても彼女は、目をそらすタイミングを見つけられなかった。
だからその瞳は…
「言ってみなよ、オスカル。どう思ったのか」
彼は追及を緩めなかった。
だって彼女の手は、さっきアンドレのシャツをつかんだまま。彼のくちびるを欲しがっているのは、もう判っていることなのだ。
なら。
帰りの馬車から拗ねっぱなしで、話を聞こうともしなかったわがままなお嬢さまには、少しお仕置きが必要だな。
アンドレはわざと大げさに、寂し気げな
「妄想で1000回くちづけされてたら、そりゃ気持ち悪いよね」
近づけていた顔をわずかに離してみる。
「え?あの、アンドレ!?」
彼女は彼の術中に、カンタンにハマった。
とっさに彼の首に腕を回している。
「違う、アンドレ。誤解しないでくれ。そんな…気持ち悪いなんて思うわけない」
「そうかなぁ?」
「ただおまえの……はとても……から、きっと……とイロイロ経験があるんだと思って‥少し…寂しかったというか‥」
さらにしどろもどろな彼女に、アンドレは心の中でくすくす笑いながら、しかし、せつなげな表情は崩さなかった。
もう一押し、かな?
「聞こえないよ、オスカル。ちゃんと言ってごらん?」
「だ‥から」
彼女はいっそう赤くなりながらヤケクソの勢いで言った。
「ただおまえのくちづけはとても気持ちイイから、きっとたくさんの女とイロイロ経験があるんだと思って‥少し…寂しかったんだよ、悪いか!」
普段甘い気持ちを吐かない彼女から、こんなせりふを引っぱりだせて、彼はかなり満足な気分になった。
今日さんざん当たり散らされた分は、これでちゃらにしてやろう。
でも、利子は払ってもらわないと。
「悪くはないけどね、オスカル。それはおまえの早とちりだったわけで、それについてはちゃんと謝罪してくれないか」
謝罪?何を堅いことを。
普段はおおらかなアンドレがそんなことをいうなど、彼女は少し意外に思った。
「あ…ああ、謝罪。うん。頭ごなしにキレた私が悪かった。今後は気をつける。すまなかった。」
彼女は素直にそう言ったのだが。
「違うよ、オスカル。本当に悪いと思ったなら、行動で示してくれないとね」
へ?行動で!?
「言っている意味がよく判らないのだが…まさかおまえ」
「当然!『くちづけにはくちづけ』でしょう」
な…んだ、こいつ。何を馬鹿なことを。
アンドレの言い分に、彼女はめまいがしてきた。
さっきから翻弄されっぱなしで、気力が切れてきた気がする。
私からソレをしろ…と?
「そんなに難しいことじゃないと思うよ。だってこの状況、誰が見たって」
2人は向かいあって窓辺に立っていて、でもアンドレは彼女に触れていない。長身をかがめてくれてはいるけれど、触れているのは、彼の首に腕を回している彼女の方だ。
どう見ても、彼女からのくちづけ直前というシチュエーション。
「さあ、お嬢さま。1000回のくちづけ、あなたはどう思いましたか?ご感想と謝罪の気持ちをどうぞ」
そうたたみかけられて、どうにも言い逃れはできない空気に彼女は観念した。
彼の首に、いっそう深く腕をからめる。
精一杯背伸びして、彼の耳もとで小さくささやいた。
「
鼓膜をふるわせる低めの声。
緊張でちょっと掠れていて、アンドレは、これから彼女が「初めての自分からのくちづけ」をしてくれる覚悟だと判った。
大丈夫だ、オスカル。
上手にできなくても、俺が助けてあげるから。
アンドレの心は、恋に不器用な彼女への愛おしさでいっぱいだった。
きっとくちびるを触れさせるのがやっとなんだろうな。
なんて、彼は思ったのだが…
そのあと確かに、彼女は「初めての自分からのくちづけ」をした。
でもそれは、アンドレの想像を大幅に覆す、ちょっと言葉にするのははばかられるほど…
濃厚なくちづけだった。
おい、オスカル!おまえ、ウソだろ!?
余裕たっぷりで官能的な、オトナ過ぎるくちづけ。
彼はドン引きだった。
こいつ、なんでこんなにうまいんだ!?
思わず彼女の肩をつかんで体を離すと、テーブルへ戻り、グラスのワインを一気に飲み干した。
思いがけない逆襲にちょっと動揺し、ワインの冷えた喉ごしが心地良い。
そんな彼のうろたえっぷりを、今度は彼女の方が涼しい顔で見ている。
ふん… ざまぁみろ。
私をなめるからだ。
おまえの方がイロイロと経験があるようだから、他の
くちづけに関しては、彼も自分だけだとなれば話は別で、彼女は俄然自分のペースを取り戻したのだ。
アンドレがあんまりいじわるを言うから、恥ずかしさが1周回って腹がすわったのである。
「オスカル、おまえどこでこんな」
彼は、目の前の長椅子に移動して、派手に足を組む彼女に問いかけた。
どこで、だと?
おまえが
それに。
発禁本のコレクション。
こんなときに役立てなくて、いつ使うというのだ。
「さぁな。ただ私はどんなときでも実力の限りをつくす。
それだけだ」
不敵に笑った彼女は昔通りで、主導権を奪い返されたアンドレは軽く不安を覚えた。
ちょっとMがかった最近の彼女はすごくそそったのに、なんだか今の彼女の瞳にはドSの片鱗が見えるようで。
だけど、それはそれでそそられている俺って一体…
結局アンドレは、相手が彼女であれば、いつ
いつの間にか、機嫌がよろしくなったお嬢さま。
風向きが変わったきっかけは、やはり冷えた白ワインとプチフールであろうか。
アンドレは心の中で、アドバイスをくれた侍女に感謝した。
今度オスカルのお供でパリにでも行ったら、評判の良いお菓子でも買ってきてあげよう。
彼はワインを口に含むと彼女のくちびるを捉える。
「や…。なに‥を」
小さな抗議の声など無視してくちびるをふさぐと、冷たいワインを流しこんだ。
「んっ!」
ぱたぱたと暴れる手首を抑えて全部飲ませてしまうと、彼女の瞳には甘い怯えが僅かに戻っている。
つけいるなら今だ。
アンドレは主導権を奪還すべく、実力行使に出る。
さっきのくちづけで勝った気になっているお嬢さまに、もっといろいろ判らせてあげないとね。
幼なじみ時代からのガキっぽい主導権争いは、恋人の夜にも持ちこまれ…
さて、この2人に「1回目の夜」はいつ訪れるのだろうか。
FIN
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