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こちらはメインコンテンツの【令嬢の回顧録】です。
開設の2010/12より概ね2013/10までにUPしたノベルを置いています。


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【2】

UP◆ 2012/8/24

    とっぷりと陽の落ちたベルサイユ。
    プティ・トリアノンの1室で、彼女は途方に暮れた顔をして座っていた。
    どうしてこんなことになってしまったのだろう。
    こんななりをしていても、伯爵家の末姫であるオスカル・フランソワ。人に世話を焼かれることには慣れている。
    けれど。
    王妃さまお気に入りの小宮に1人で戻った彼女は、いきなり王妃付きの女官たちに取り囲まれた。有無を言わさぬ圧力をかけられ、四方八方から手が伸びてくる。
    「ちょっ…待たれよ、女官どの。女っ…にょーっっ!」
    これが暴漢に襲われたとでもあらば、臆することなく大暴れする彼女。
    だが、場所がプティ・トリアノンで、相手が王妃付きの女官となるとそうもいかない。かよわい女性に実力を行使するのははばかられ、遠慮がちな抗議の声をあげるのが精一杯だった。
    「話せば判る。だから女官どの、どうか落ちついて。落ちつい…うわぁぁぁ」
    たいした時間もかからぬうちに、見事な手際のよさで軍服をはぎ取られた彼女は、僅かばかりに残された薄絹姿で、ぐるりと取り囲む女官たちの目の中、しゃがみ込む格好となった。
    これが自分の屋敷であれば素っ裸もへっちゃらで、着替えすら侍女任せの彼女。
    しかし、今、自分を取り囲むたくさんの目は、冷ややかなくせに好奇に満ちた、宮廷女官独特のツンとしたもの。
    ふぅん、これがあのオスカル・フランソワの×××なのねぇ。
    そんな声が聞こえてくるようだった。
    女が女を値踏みする独特な眼差しは耐え難く、いっそのこと周りが全部男で、イヤラシイ目で見られる方が、まだ気が楽だと思える。
    ブチ切れて成敗してやれるぶんだけ、スッキリするではないか。
    「女官どの、せめてご説明を」
    怯えた小動物のごとき心地で彼女が訴えると、その様子があまりにもおかしかったのか、女官たちは少し表情をゆるめた。
    「これからお湯浴みをしていただきます。そのあと、こちらでご用意した装束にお召し替えを」
    …湯浴み?今すぐに?
    「こちらへ」
    心なしか腰の引け気味な彼女は、ざわざわと伸びてくる腕に立たされ押され、次の間へと連れて行かれた。
    女官によって開かれた扉の向こうに見えるのは、部屋の真ん中に置かれた金飾りのバスタブ。四隅についた脚は天使の姿をしていて、なんともロマンティックである。
    「王妃さまは、こちらでのお湯浴みを毎朝の日課にされておいでです。今夜は王妃さまからの特別な計らいで、あなたさまもこの贅沢なひとときをお楽しみになれるのですよ。さぁ、ありがたく、この栄誉をお受けなさいませ」
    半ば強制的に手を取られ、逃げることを諦めた彼女がおとなしく湯に身を浸すと、無駄なほどいた女官たちは、ザザッと波が引くように退がっていった。
    部屋に残ったのは、女官とはまた違う、湯浴み着をまとった3人ほどの女性。
    どうやら入浴専門の世話係らしい。
    「失礼いたしますわ、オスカル・フランソワさま」
    「どうぞおくつろぎくださいませね」
    女官たちとは違う柔和な笑顔に、僅かばかり安堵する彼女。
    それを見てとった世話係の女性たちは、呪い師のような手つきで彼女を磨き立て始めた。
    入浴の世話を焼かれることも、彼女にとって珍しいことではない。
    けれども。
    かくっ。
    ぐらぐらしていた首が一瞬落ちて、彼女はハッした。
    いけない、私としたことが!
    たっぷりと惜しげもない湯に揺らされ、なんとも絶妙な女性たちの手に、思わずうとうとしていたのだ。
    近衛連隊長としての責務の重さはじゅうぶんに承知しており、また、少々人並みではない自分を自覚している彼女が、ひと前で隙を見せることはない。
    しかし、さすが王妃付きの世話係のテクニックといおうか、体に触れてくる感触はあまりにも心地よすぎた。
    …まずい。でも。
    何気なく交わされる会話も、使われるちょっとした小物も何もかもが行き届いていて、常に現実的な彼女でも、少しずつ夢見心地な気分になってくる。
    じわりじわりと浸蝕してくる睡魔。
    彼女はそれを懸命に追い払っていたが、やがて丁寧に磨きあげられると、ところは更に奥の間へと移された。
    「こちらへ」
    勧められるままに略式の寝台に伏せると、別の世話係りたちが寄ってきて、さざ波のように手を伸ばしてくる。
    疲れた体を揉みほぐすイタ気持ちイイ感覚や、爪の手入れに刺激される指先のこそばゆさ。
    高く低く聞こえる女たちの談笑は呪文のように耳に忍び込み、彼女の意識はふわふわと漂った。
    …気持ち…い…


    つい眠り込んでしまった彼女が目を覚ましたのは、もうとっぷりと日の暮れた時刻だった。
    何かがツンツンと頬を突ついている。
    柔らかく尖ったもの。
    そして、忍び笑いする女の声。
    「こうして見ると、オスカルもなかなかかわいいわね。そろそろ起きてくださいな、お寝坊さん」
    「…うぅ…ん…」
    なんだかすごくぐっすり眠った気がして、彼女は時計に目をやった。
    が。
    そこに見慣れた自室の時計はなく。
    そうだ、ここは!
    いっぺんに自分を取り戻した彼女の視界にヌッと入ってきたのは、夜着を羽織った王妃だった。
    「王后陛下!」
    「ようやくお目覚めね?」
    「申し訳ありま」
    慌てて起きあがろうとする彼女の肩を、王妃はやんわりと押し留めた。
    「だめよ、オスカル。激しく動いては、せっかくきれいに結い上げた髪が乱れてしまうわ」
    「しかしながら」
    って…結…った……髪?
    彼女はきょろきょろと辺りを見回す。
    素っ裸でエステ状態だったはずの彼女は、今は薄絹に包まれて、カウチの上でたくさんのクッションにもたれていた。
    「私は…?」
    「マッサージやお肌の手入れをしているうちに、眠ってしまったのよ。ああ、気にしなくていいわ。わたくしもいつも、うたた寝してしまうの。とっても気持ちよかったでしょう?」
    「それは…はい。ですが」
    勤務時間外とはいえ、よりによってプティ・トリアノンで眠りこけてしまった彼女は恐縮しきりだったが、王妃はそんなことなどまるで気にしていない。むしろ、珍しく緊張を解いた彼女を嬉しく思っているようですらある。
    王妃が軽く目配せすると、部屋の隅に控えていた女官が、しずしずと鏡を差し出してきた。
    彼女はそれを受け取りながら、そぉっと身を起こしたが、いつも背を覆っている豊かな髪の感触が今はなく、露わになった首筋に、心細い気持ちになってくる。
    「ね、早く見て!」
    わくわく感を隠せない王妃に促され、彼女は比較的大きめな手鏡をのぞき込んだ。
    「これ…は。陛下、どういう…?」
    うまく言葉の見つけられない彼女に、王妃は“やった”とでもいうように、きゃらきゃらと笑った。
    「あなたも普段から手をかければ、こんな感じなのよ?どう?」
    のぞいた鏡の中には、金色の髪を高く結い上げて、過ぎない程度の化粧を施した気の強そうな女が、やたらと瞬きをしながら、こちらを見返している。
    …嫌だ…
    彼女はいたたまれない気持ちになり、思わず目をそらした。
    こんな髪、こんな化粧、私に似合う訳がない。
    「陛下も人が悪うございます」
    「あら、どうして?とっても似合っているのに」
    それは王后陛下、あなただから。あなたのような方だから言えること。
    抜きん出た美女ではないけれど、そのミルク色の肌と天真爛漫な笑顔で、皇女時代からたくさんの人々を魅了してきた王妃。いくつになっても愛くるしく無邪気な人柄は、生まれながらにしてその存在を尊重され、無条件にすべてを肯定されてきた者のみが自然と兼ね備える自信に裏打ちされている。
    そんな王妃が、彼女にはまぶし過ぎた。誕生とともにその性を否定され、長く秘めた恋心を軍服の中に押しこめて、必死に自分を鼓舞してきた彼女には。
    「もう。オスカルったら、そんなに怖い顔をしないでちょうだい。怒っているの?」
    「いえ、怒ってなど。ただ、少しばかり……
    とまどっただけです」
    そうだ。
    どうあれここはプティ・トリアノン。
    そして今は王后陛下の御前。
    臣下の立場で、不機嫌を露わにしてよい場所ではない。
    なによりこんなことになったのは、うっかり自分が眠りこけたからなのだ。
    彼女は混沌とした感情を職業意識で抑えつけ、常から王妃に向ける穏やかな微笑を取り繕った。
    「とはいえ陛下。いくら私とて、この格好ではとまどいもしましょう」
    チラリと漏らしてしまった不機嫌さを払拭したい彼女は、あえて声に笑い含ませ、身を包んでいる絹地をかき合わせた。
    するすると肌を滑る上質な布は薄く頼りなく、下着の1枚すら身につけていない女性には、当然落ちつけるものではない。いくら男らしく育った彼女だとしても。
    「そうね。確かにその姿では、とまどうのも無理はないわね。では、すっかり陽も落ちたことだし、そろそろお支度の仕上げに入りましょう」
    「仕上げ、でございますか?」
    「ええ。今夜のために作らせた、特別な衣装があるのよ」
    王妃がそう言うか言い終わらないかのうちに、扉からは、またわらわらと女官たちが現れた。それぞれ腕にぴっちりとたたまれた生地を掛けていて、それらには、さまざまな図柄や色合いがあるようだった。
    「生地?いえ、これは…?」
    「生地のように見えるけれど、これは仕立て上がったお衣装なの」
    王妃は女官の手からひとつを取り上げると、はらりと広げ、羽織って見せた。
    確かにそれは、広げてみればただの布などではなく、身ごろや袖が取ってあり、丁寧に縫製されていた。
    それに、絵柄のあるものは、裾や胸元、肩のあたりに図がくるよう工夫されているらしく、なかなか美しい。
    「これは確か“着物”とかいう?」
    「そう!よく判ったわね」
    「伝え聞いたことがあるだけでございますが」
    「オスカルはなんでもよく知っているのね」
    王妃はその衣装が着物と言い当てられて、ちょっぴり悔しそうな顔をしたが、しかしすぐに、してやったりという笑みを浮かべた。
    「でもね、実はこれは着物ではないの。よく似ているけれど“ゆかた”というものなのよ」
    「ゆかた?」
    着物については、そんなものもあるのだという程度の知識の彼女。本物はもちろん見たことがなく、ましてそれが浴衣だとは、判るはずもなかった。
    「わたくしが一目で気に入った異国の装束は着物だったのだけれど、こんな夏のお祭りの夜には、(か)の国ではゆかたを着るのですって。もっとも、着物とゆかたの違いが未だにわたくしには判らなくて、これらはわたくしの好みだけで作ってしまったものだけれどね」
    王妃が合図をすると、女官たちは手にした布地を開いて見せた。
    王妃とオスカル・フランソワをぐるりと取り囲むように広げられていく、意匠を凝らした絹の海。
    「さぁて、オスカル。あなたはどれがいいかしら?」
    「は?」
    「今夜の衣装よ。あなたはどれにする?」
    王妃は当たり前のように、友人のごとき笑顔を向けた。
    「遠慮しないで!早く決めないと、よいものはわたくしが取ってしまうわよ」
    王妃にはすでにコレと思う品がいくつかあるらしく、夜着を脱ぎ捨て次々に羽織ってみている。
    誉めそやす女官たちの声と、はしゃぐ無邪気な声。
    その空気に、オスカル・フランソワだけがなじめずにいた。
    色とりどりのゆかたを合わせてみては鏡を覗きこむ王妃の仕草は、2人の子の母とは思えないほどの可憐さだった。
    小さな手、なめらかな肌、くるくると表情豊かな瞳。そして豊満な胸のライン。
    どこを取っても女性そのもので、彼女の胸を苦しくさせる。
    あの男は…
    フェルゼンは、延いては身の破滅と知りながら、このお方を愛しているのだ。この愛くるしい方だけを。
    彼女が密かに想いを寄せる北欧の貴公子。
    その男の瞳に自分が映ることがあっても、それは彼女の望む眼差しではない。
    ときには熱を帯びた眼差しがオスカル・フランソワに向けられることはあっても、それは彼女を通り越し、彼女の仕える“ベルサイユ宮の薔薇”と称される 貴人 あてびとへのみ注がれるもの。
    男の眼差しひとつに翻弄され、その瞳に熱く見つめられることなどないと判りきっているのに、それでもまだ振り回されてしまう自分が、彼女には情けなく哀しかった。
    フェルゼンの友情を欺き、王后陛下の信頼を裏切り、それでも、なぜこの想いを捨てられない?
    いつかはきっと、私こそが身の破滅だ。
    そうだろう?アンドレ。
    …って……アンドレ?
    長きに渡り、そっと愛してきた男を想い浮かべていたはずなのに、不意に幼なじみの顔がよぎって、彼女はどきりとした。
    なぜ今、あいつを。
    幼いときから共にあって、本当の兄弟以上に心を寄せあってきた従僕。その彼にすら、フェルゼンへの恋心は隠してきたというのに。
    黒髪と、黒曜石のごとき穏やかな瞳。
    意外過ぎるタイミングで彼を思い出し、彼女はなんだか妙な心地がした。
    ……きっと、少しばかり心細いからだ。こんなにたくさんのひとの前で、身ぐるみはがれた状態なのだもの。
    「そうに決まっている」
    「なぁに?なにか言った?オスカル」
    王妃の弾んだ声に、彼女は若干沈んでいた表情を意識的に明るくした。
    しっかりしろ。今は王后陛下の御前だ。
    「気に入ったものがあったのね?どれにしたの?」
    すでに着付けを始めていた王妃は、女官たちの間から伸び上がり、無理に首を向けるように問いかけてきた。
    「はい。え…」
    っと。
    彼女は言葉に詰まり、そして、ザッと見回したゆかたの中で、もっとも色味の抑えられたものを手に取った。
    「私はこちらのものを」
    「ま…ぁ、オスカル!それにするの?わたくしそれは」
    王妃はなにか言おうとしたが
    「王妃さま、動かないでくださいな」
    「まっすぐ前をお向きになって。ただでさえこの装束は、お着せするのが難しいのですから」
    忙しく立ち働く女官たちに阻まれて、彼女と王妃の会話は途切れてしまった。
    「さ、オスカル・フランソワさま。あなたさまもそろそろお召し替えを始めてくださいませんと。王妃さまをお待たせすることになってしまいますわよ」
    「しかし」
    彼女には、2つ3つ、気にかかることがあった。
    「先ほどの王后陛下のご様子。私がこの装束を選んだことを、快く思っていらっしゃらないようだったが」
    「ああ。そのことでしたら、ご心配には及びません。あなたさまのお選びになったこのゆかたが、王妃さまのお好みで仕立てたものではなかったからでしょう。でも、こちらの品は彼の国の職人の描いた柄ですから、礼を失したものではないかと思いますわ。むしろこちらが正統派かと」
    女官は彼女の支度を始めながら、ツンとした表情をこっそり崩し、小声で言った。
    「王妃さまのデザインされたものは、さすがに絢爛で華やかなのですけれどね。少々趣きにかけるのですわ」
    …ふぅむ。そういうことか。
    「とっさに1番華美ではないものを選んだだけなのだが」
    しくじったか。
    彼女は口の中でモゴモゴとつぶやいていたが、女官にゆかたと同じような形の薄い衣を着せかけられてギョッとした。
    「女官どの。私の…下着、は?」
    実のところ、こんな格好にされてから、彼女はそれをずっと気にかけていたのだ。
    「下着、でございますか。それがなんでも彼の国では、コルセットなどを着ける習慣がなく、ゆかたの下にはこの薄い衣をつけるだけらしいんですの」
    「この衣だけ…って……え"ぇぇぇ!?」
    彼女はらしくもなく、素っ頓狂な声をあげていた。
    「だっ…そんな…衣だけって…」
    「ええ、コルセットも、靴下も、もちろんその他の下着も靴下留めなどの小物も、なにも身につけないのですって」
    女官の声が“なにも”というところで強調された気がして、彼女はバクバクと動悸がしだした。
    こんな羽織もの程度の服のみで、下着もつけないだと?
    おいおい、そんな状態で馬など乗ってみろ。猥褻物の陳列もいいところではないか!
    ゆかた姿で馬に乗るなど、あるはずもないのに、その状況をリアルに想像し、彼女は本気でまずいと感じ始めた。
    いかんだろ、それは。仮にもジャルジェ家の次期当主ともあろう者が、公衆の面前で猥褻物を見せびらかすなど!
    彼女はもう1つ残っていた疑問を理由にして、なんとかゆかた着用を断ろうと、焦りで乾く口を開いた。
    「ここに用意されたゆかたとやらは、王后陛下のために仕立てられたものなのでしょう?見ての通り、私はこの身長だ。残念ながら、とてもサイズが合うとは思えません。本当に大変残念なのですが」
    彼女はそう言いながら、はぎ取られた軍服がどこかに見当たらないかと、真剣な視線を走らせた。
    が。
    「ところがなんですのよ、オスカル・フランソワさま!」
    1人の女官が笑みを浮かべて詰め寄った。
    その笑顔には、彼女が逃げたがっているのを見抜いた上での、悪魔のような喜びが見て取れる。
    いや、実際には単なる儀礼的な微笑みだったのだが、追いつめられた彼女にはそう見えた。
    「この装束の面白いところは、身長よりもずいぶんと長く出来ていることですの」
    「ほ…ほう」
    じりじりと狭くなってくる、女官包囲網。
    「王妃さまはお胸の周りが豊かでいらっしゃいますし、あなたさまは身長の割に、線は細くていらっしゃる」
    「そっ…そう、でしょうか?」
    さらに取り囲んでくる女官たち。
    「ある程度お体の幅が近ければ、身長の分など、ある程度ごまかしの利くのが、この装束の変わったところなのですわ」
    その言葉が言い終わらぬうちに、女官たちの手が四方八方からのびて来た。
    「ちょっ、女官どの。落ちつかれよ、女官どのっ!にょっ…にょっ……わぁぁぁ」
    彼女は一気に群がってきた女官たちにいいようにされ、いくらもしないうちに、藍の色も美しいゆかた姿へと変身させられてしまった。
    「やはり着丈は少々短くなってしまいましたが、そこはよしとしていただかなければ。よろしいですわね?オスカル・フランソワさま」
    「…は…い」
    紐のようなもので縛られたり、幅広のリボンかベルトのようなもので締め上げられたりで、すっかり息の上がった彼女は、ぐったりと頷いた。
    うう。わきの辺りがスースーする。うかつに腕など上げれば、胸元がのぞけてしまうのではないだろうか?
    普段は鬱陶しく感じているコルセットも、着けていないとなると、やけに不安で仕方ない。
    上げた髪に襟を抜き、さわさわと風が通る襟足も、歩くとぱたぱたと合わせが開く裾まわりも、何もかもが落ちつかない。
    …ああ、どうしよう?
    彼女と、そして王妃の支度が整うと、女官たちは合図を待つこともなくザザッと退がっていった。
    所在なく、座らされた椅子に座らされた形で座っているオスカル・フランソワ。
    弱りきった視線の先には、真紅の薔薇模様に金糸・銀糸を織り込んだ、ド派手なゆかた姿の王妃がいた。
    本当に、なんでこんなことになってしまったのだろう。
    つい誘いこまれるように眠りこんでしまった自分に、彼女はほぞをかむ思いだったが、しかし、本当に焦るのはこれからだった。
    「さぁ、オスカル。ようやくお支度も整ったことだし、そろそろ異国の夏祭りへと参りましょう!今、女官が別室にいるアンドレを呼びに行っているから、じき、迎えに来てくれるはずよ」
    げっ!アンドレだと!?
    髪を結って、化粧をして、何やらスカスカする格好をして。
    こんな姿でアンドレに会う!?
    緊張するような間柄ではないというのに、彼女はにわかに緊張が高まっていくのを抑えきれなかった。

    どうしたらいいのだ。
    今の私は、猥褻物だというのに!
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