ご案内
【白熱!雪のベルサイユ!! 1】
UP◆ 2011/2/27「2000万フランス国民の皆さま、お久しぶりです。今年も『白熱!雪のベルサイユ!!フランス陸軍対抗雪合戦』のシーズンがやって参りました。先ほどまでは予選から準決勝までをダイジェストでご覧いただいたわけですが、ここからはなんと生放送で決勝の様子をお伝えしたいと思います。解説は夏の『熱闘!ベルサイユ!!』に引き続き、私モールパとオルレアン公。そして後ほど特別ゲストがお見えになる予定です。ね、オルレアン公」
「 まったく遅刻とは。もう生放送が始まってるっていうのによいご身分なことだ。ふふ… 私に追い落とされるのも時間の問題だな …ふっふっふ… 」
「ちょっ… オルレアン公?」
「はっ! …っと、はい、とっても素晴らしいゲストがもうすぐいらっしゃいます!」
「さて、オルレアン公。今年の『雪ベル』ですが、決勝に残ったのは奇しくもジェローデル少佐率いる近衛隊選抜チームと、ジャルジェ准将率いる衛兵隊選抜チームとなりましたね」
「はい。まさに昨年の『熱ベル』の再現のような組み合わせとなりました」
「昨夏の『熱ベル』は荒れましたからねぇ。ジェローデル少佐はなんとしてでも勝って、ジャルジェ准将にリベンジを果たしたいところでしょう」
「その少佐率いる近衛隊選抜チームですが…」
「なんでしょう、オルレアン公」
「決勝のメンバーのオーダー表がまだ出ていないんですよ」
「え?だってもう試合前のアップが始まる時間ですよ?」
「はい。まぁ、オーダー表はあくまで予定ですので、絶対提出の義務はないのですが…」
「それにしても珍しいことではありますね。…あ、両チーム、フィールドに出てきましたよ。アップが始まるようです」
「ではここでチームの紹介と『雪ベル』のカンタンなルールのご説明をいたしましょう。モールパ伯、フリップを」
「はい。こちらが『雪ベル』のフィールドになります。
まず、選手は各チーム6人。決勝ではメンバーチェンジはできません。そのかわりポジションの変更が自由にできます」
「と、言いますと?」
「まず6人のうち2人がバックス、4人がフォワードになります。プレイ中フォワードとバックスはバックラインで隔てられることになります」
「バックスは基本的に捕球兵になるわけですね?」
「はい。フォワードは雪球が欲しくても、バックラインを超えて下がることはできません。おおむね雪球は障壁Aや障壁Fに置かれることが多いので、バックスとフォワードの雪球の連携が重要になってきます」
「衛兵隊選抜チームではバックスにフランソワ・アルマンとジャン・シニエが入るようですね」
「『熱ベル』ではなかなかのピッチングを見せたアルマンがバックスですか」
「ジャルジェ准将はフォワードに入れたかったようですが、予選の段階でアルマンの疲労が濃かったため、バックスに下げたようです」
「もう1人のバックスはシニエですが」
「ああ。彼は非常に良い雪球を作るんですよ。手際も良い。フォワードのソワソンやグランディエ、ルイ・マローへの雪球と、同じくフォワードのジャルジェ准将への雪球では、大きさや硬さを変えているようです。手の大きさや握力などを考慮してのことでしょうね。マニアックな外見に
「それに対する近衛隊選抜はまたなんというか…」
「アメフト並みの重装備ですね。まぁ、装備に規定はないのですがこりゃすごい。決勝へのやる気というのでしょうかね?」
「シールドで顔が隠れて誰が誰やら判りませんね。あのウェイビーなロングヘアがこぼれているのが少佐でしょうか」
「衛兵隊選抜が軽装過ぎるというのもあるかと思いますが」
「それはジャルジェ准将の体力を考慮してのことのようですよ。装備が重いとジャルジェ准将には不利ですから」
「それにしても衛兵隊選抜のユニフォームが黒のライダースーツだとは…」
「ソワソンとグランディエは黒髪黒目なので単純にさまになっていますが、なんかもうジャルジェ准将がえらいことになってますね」
「金髪が黒い革に映えて… しかもライダースーツが体にぴったりとフィットしているので、目のやり場に困ります」
「貧乳のイメージが強いジャルジェ准将ですが、こうして見ると…ほほう、これはなかなか…」
「……はい…なかなか……」
「はっ!えー、と、引き続きルールの説明です。試合は6対6で行われ、チームは捕球兵であるバックス2人と攻撃手のフォワード4人で構成されます。センターラインを超えて敵陣まで攻め上がれるのはフォワードのみ。フォワードが敵陣のフラッグを奪取したところでゲームセットとなります」
「全員被弾アウトでも勝敗が決まりますね」
「はい。通常ルールでは全員被弾アウトでゲームセットですが、決勝では万一キャプテンが被弾した場合、何人生きていても即ゲーム終了になります」
「キャプテンの責任は重大ですね。近衛隊選抜はジェローデル少佐、衛兵隊選抜はジャルジェ准将がキャプテンを務めるようですが」
「ええ。以降、煩雑になりますので近衛隊選抜を『チーム・ジェローデル』、衛兵隊選抜を『チーム・ジャルジェ』と呼びたいと思います」
「そして、モールパ伯。決勝ならではの特別ルールがあと2つ。通常ルールでは3分間×3セットの試合が、決勝では休憩時間をはさんで前半20分・後半20分の「1本勝負」になります。そして決勝では本来センター障壁のある部分にラビリンスが作られます。モールパ伯、フリップを」
「はい、こちらがラビリンスです。
ラビリンスの中はフィールドからは見えません。定点カメラが1台あるだけです。そして中央にはボーナスフラッグがあります。これは勝敗には関係ありませんが、獲得しておくと、優勝したとき用途自由の特別予算が与えられることになっています」
「そしてラビリンスでは『雪ベル』最大の特徴、『寝返り』が行われるかもしれませんね」
「はい。通称『寝返り』は、ラビリンス内で遭遇した選手同士が、交渉によって相手を見方に寝返らせることができます。なかなか見られない『寝返り』ですが、今大会では見られるのでしょうか。楽しみですね、オルレアン公」
♪ く~さ~むら~に~ 名~も知~れず~
「!…は、はい。楽しみ…です…ね」
「ああ。今、ラビリンス前のセンターで、キャプテン同士が握手を交わしています。『雪ベル』いよいよ決勝の開始です」
♪ 薔薇はっ 薔薇はっ 気高く~咲ぁいぃて~
「ってコレ、さっきからなんなんです?オルレアン公」
「すみません、私の着うたです。ちょっと失礼」
「オルレアン公!?」
「 ……ああ、私だ。何!?銃2000丁略取成功?判った、すぐ行く。あの、モールパ伯。私、所要ができまして… 申し訳ないのですが、実況はここまでということに」
「えぇっ!?ちょっとオルレアン公!!」
「特別ゲストももうお見えになるでしょうし…… これにてご免!!」
「そんな。ちょっと! …えーと…失礼いたしました。さぁ、CM後、いよいよ試合開始です。チャンネルはそのままで!!」
選手の6人がホームのベンチに戻って来ると、ダグー大佐がホカロンを手渡した。
「今日は天気に恵まれて良かったですな。しかし指先は温めておきませんと、雪球のコントロールが狂いますぞ」
「ああ、ありがとう大佐。本当に今日は小春日和だな」
ホカロンを頬に当ててニコニコと笑うオスカル・フランソワに、ダグー大佐は一瞬見とれた。
勤務中とは違うリラックスした表情は柔らかで、雪に溶けこみそうな白い肌の高貴さに、この上官がやはり深窓の令嬢なのだと妙な納得を覚える。
「隊長っ!近衛のメンバーが判りましたよ~」
ホームを離れていたラサールが戻ってきた。
「本当か?とっとと教えろ」
素早く反応したのはアランである。
「『熱ベル』でもセコいメンバーチェンジをしやがって、
「まぁ落ちつけよ、ガキ」
アンドレにからかわれて、アランは余計に不機嫌な顔をした。
この2人、仲がいいんだか悪いんだか。
彼女はゆったりと微笑って見ている。
「え…と、ですね。近衛サイドの決勝メンバーはキャプテンが連隊長のジェローデル少佐。それから『熱ベル』でもファンクラブがすごかったマリュスとエミールの貴公子コンビ。あと駿足のブルデュです。で、たぶんバックスの1人は熱ベルでキャッチャーを務めた連隊長の従卒だと思いますよ」
「ほう。ではジェローデルとブルデュのフォワードは堅いな。しかし…」
「はい。あと1人がどうしても判んないんですよね。俺、近衛選抜をアップ前から偵察してたんですけど、ホームでも1人だけがシールドを外さなくて。それにジェローデル少佐以外、誰もその選手とかかわろうとしないんですよ。まるで避けるみたいに」
「…ふ‥む」
ラサールの報告に、オスカル・フランソワの眼差しがほんの少し険しくなる。
「どうかしたのか?オスカル」
「うん…。さっきフィールドでジェローデルと握手したとき…」
両チームのアップ終了後、キャプテンが主審に呼ばれ、フェアプレイの宣誓をした。
そしてお互いを讃え合い、握手を交わしたのだが。
『出場メンバーを明かさないとは、たいした念の入れようだな。ジェローデル?』
軽い皮肉を込めて彼女が言うと、珍しくジェローデルが彼女に対して不愉快そうな顔をした。
その重く暗い眼差し。
『私とて、好きでこのようなことをしたわけではありません』
『それはどういう』
意味だ?と問おうとした彼女の手を、ジェローデルが不意に強く引いた。
『な…っ』
不意に男の胸に飛びこまされて驚く彼女の耳に、ジェローデルが低く囁いた。
『お気をつけて、オスカル嬢。お心を強く持って… 私には、今はそれしか言えません』
『ジェローデル、それは』
意味深な言葉に彼女が顔を上げたとき、彼はもう背を向けてホームへ向かっていた。
その抱擁は本当に一瞬で、その場にいた誰もが、元近衛連隊長と元副官の友好の現れだと思った。
どういう意味なんだ、ジェローデル。
その場の空気に追いかけて問いただすこともできず、彼女もまたホームへと戻ってきたのだったが……
「握手をしたとき、どうしたんだ?」
アンドレに言葉の続きを促され、彼女は浅く首をふった。
「なんでもない」
言いかけてやめた彼女が、アンドレには妙に気になった。
何があったんだ、オスカル。
しかし、そこに集合のホイッスルが鳴る。
「行こう」
チーム・ジャルジェの6人はゴーグルを手に取り、フィールド向かった。
なんだ?
なんか気にいらねぇ。
俺は正体の判らない苛立ちを覚えていた。
どこがどうとは言えないけれど、なんか隊長の様子がおかしい気がする。アンドレだって、ほら、あからさまには隊長の方を見ないけれど、でも隊長の気配をうかがってる。
こいつらいつもバカみたいにワンセットで同じ方向見てんのに、今はなんかズレてないか?
少なくともアップまではそんな気配なかったはず。
この短時間で何があった?
それとも俺の思いすごし?
いや。そんなはずない。
この女に関して、俺が間違うわけがない。
やっぱり近衛のあいつが気になってんだろうか。
あのいけ好かない連隊長。
かつてうちの隊長に求婚したとかいう男。
隊長もグラついたらしいけど、今は終わった話なんだろ?
それに、近衛選抜のあと1人。
誰なんだ?
ちくしょう、落ちつかねぇ。
あの謎のメンバー。
何か引っかかるんだよなぁ。
どっかで見たような、なんだか知っているような気がして。
でも俺には近衛に知り合いなんかいねぇし。
「アラン!」
急にデカい声でルイに呼ばれた。
「なんだよ」
「しっかりしろアラン。バックライン踏んでるぞ」
え?
「そのライン、わずかにでも越えたら、試合開始とともにおまえ即アウトだ」
ふと目をやれば副審が俺の足元を注視している。
危ねぇ。
集中しないと!
「メルシ、ルイ」
俺は深呼吸すると頭の中を切り変えた。
「ルイ、行くよ!」
フランソワが俺に雪球を送ってきた。
フランソワの送球は本当に素直で受けやすい。
俺はその雪球を、すぐそばにいる隊長に回した。
「メルシ、ルイ」
女に名前を呼ばれるのは、やっぱり心地いい。それが鬼隊長であっても。
俺は今回隊長と対で動く。
アンドレとアランは攻撃手として自由に動く予定だ。
俺はなにげなくアランに目をやる。
するとアランは考え事でもしているのか、珍しく心ここにあらずな様子だった。バックラインを踏んでさえいる。
フォワードがバックラインより下がったら、ルール違反で1発アウトじゃないか!
「アラン!」
俺が注意を促すとアランは集中を取り戻したようだった。
頼むよ、班長。
俺なんかおまえらと違って、なかなか隊長とお近づきになれないんだからさ。
このゲーム、少しでも長く楽しませてくれ。
今までで最も近い距離で見る隊長の横顔。
美人ってのはなんでこうも男のテンションを上げるのかねぇ。
「メルシ。フランソワ!」
俺はジャンが作った雪球をルイに回した。
隊長用の特製の雪球を何球かと、野郎用のどうでもいい雪球を何球か。
『熱ベル』のときはピッチャーなんかやらされて本っっ当にタイヘンだった。今回だって、予選では隊長の代わりにフォワードやったけど冷や汗もんだったし。
やっぱり俺には裏方があってるな。
バックスの方が伸び伸びやれる。
「な、ジャン」
俺がそう言うと、意味も判らないだろうにジャンは笑ってくれた。
バックスは目立たないけど、俺たちが機能しないとチームは動けない。
送球のタイミングで勝敗の行方が決まるんだ。
隊長は俺を信頼してくれてるんですよね?
俺は予選で既にけっこう疲れていたけど、隊長が期待してくれてるなら頑張れる気がする。
それに、アランには秘密の話だけど優勝したら…
「勝ちたいね、フランソワ」
雪球制作から顔を上げてそう言ったジャンに、今度は俺が笑った。
最前線の障壁Cにいるアンドレへ送球を終えると、俺たちは束の間、休息。
隊長、頑張ってくださいね!
「アンドレ、いくよ~」
「よし、こい!フランソワ」
フランソワとジャンからの、試合前の送球は俺で最後だった。
俺は最前線の障壁Cに控えていて、試合開始とともに自由に動いていいことになっているけれど…
なんだか嫌な予感がする。
オスカルをルイに任せるのが不安だ。
ルイじゃあいつが無茶をしても止められない。
代わってもらおうか…
いや、それよりも。
言いかけてやめたオスカルが気になって仕方ない。
やっぱりあのとき追求すれば良かったか。
でもあいつは、言わないときはどうあっても言わないからなぁ。
まさか少佐から再び求婚されたとか?
それで心がまた不安定になってる、とか!?
…正直俺はこの試合にオスカルを出したくない。
もうエントリーしてしまっているからメンバーチェンジはできないが、でも、なんとかあいつをバックスに下げることはできないだろうか。
オスカルが少佐と関わりを持つこと。
それを思うと、あの求婚騒動が思い出されて俺は平常心でいられなくなる。
あのときオスカルは間違いなく「女として扱われる自分」に惹かれていた。女に生まれたはずのあいつに、決して手に入らなかったもの。
でも少佐には、それを与えることができるんだ。あの男には、それだけの地位と身分と財力がある。
俺には絶対的にないものが!
もう俺は、最悪オスカルにルール違反をさせるか、なんなら故意に被弾させて試合終了に持ちこみたい気持ちにすらなっている。
たかが遊競技としてでも、俺はオスカルと少佐を接触させたくなかった。
オスカルの心を刺激する少佐の巧みさが、俺を不安にさせる……
チーム・ジャルジェの中で、メンバーそれぞれの思いが交錯する。
しかし、試合開始のホイッスルと共に、事態はそれこそアランの思ってもみない方向へ、そしてアンドレの予想を上回る展開へと転んでゆくのだった。
2へつづく
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