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【熱闘!ベルサイユ!!2 ~祭のあと~】
UP◆ 2010/12/25「熱闘!ベルサイユ!!」は、ベルサイト【光さす時の中から】さまに掲載していただいており【こちら】からジャンプすることができます。
よろしければどうぞ。
今年の夏のベルサイユは、衛兵隊Bグループのサファイアブルーが優勝を飾り、コーチをつとめたオスカルはごきげんだ。
しかも、試合はおまえのサヨナラホームランで決着したのだから喜びも大きい。
チーム全員で祭のごとき祝勝会をやって、帰宅したのは真夜中過ぎだった。
屋敷の者を起こすと、またおばあちゃんや侍女やらが出てきて面倒なことになるので、俺とオスカルは屋敷の裏の使用人用の出入り口から入ってきた。
大理石の廊下にスパイクの音が響く。
「廊下に傷がつきそうだな」
「ああ。おばあちゃんに見つかったらどやされそうだ」
酒にはまったくもってザル状態のおまえは、いつものごとく相当な深酒をしている。
でも今日は少し飲み過ぎたようだ。
馬車を降りてからずっと、俺の左腕を抱えるようにしてもたれかかって歩いている。
当然、俺は落ちつかない。
俺自身はいつものごとく、自分に適量の酒しか飲んでいない。
つまりたいして酔ってはいないのだ。
「オスカル」
「なんだ?」
「おまえ、1人で歩けないほど酔ってるのか?」
「まさか私が」
「じゃ、1人で歩いてくれ」
「なんでだよ。けちけちするな」
おまえはふてくされたと思ったら、さらにぎゅっと俺の腕を抱えこんできた。
あー、もう、おまえって奴は!!
俺はいっそのこと、オスカルをどつき飛ばしたいぐらいの気持ちになった。
なぜって、他意なくまとわりつく彼女の胸が、俺の腕に密着しているから。
しかも、そんなふうにまとわりつかれると、俺の手がちょうど彼女の内もも辺りにきてしまうのだ。
こいつはかつて俺に強姦されかかったことを忘れているんだろうか?
それともそれを踏まえた上で、さらに俺を信用してくれているんだろうか?
どっちにしても「もう、こんなことはしない」と誓った俺には手出しできない。
あ~、イライラするっ!
俺はオスカルの腕を振りほどいて、彼女の肩を抱いた。
この方が俺が安心だ。
暗い廊下を歩き、誰にも会わずにオスカルの部屋へ着いた。
やっぱりおまえは少し飲み過ぎていたようで、部屋へ入るなり背中から長椅子に倒れこんだ。
俺は燭台に火を灯して回ってから、床に膝をついてオスカルのスパイクを脱がせる。
「ソックスは?」
「いい。自分で脱ぐ」
「じゃ、起きろ」
オスカルは仕方なさそうに起き上がった。
「おまえ、俺に何か言うことがあるんじゃないか?」
俺がそう言っても、オスカルには全然思い当たる節がないようだ。
「なんだろう?1班で何かあったか?」
まぁ、1班と言えば1班の話だけれど。
「フランソワとの約束だよ」
「なんだ。そんなことか。おまえまで気にするとは思わなかったな。たかがランニングじゃないか」
ああ、こいつ本当に判ってない…
「あのな、オスカル。練習が始まった頃に、タンクトップとショートパンツはやめろと俺は言ったはずだぞ」
「ああ… 言ってたな」
「なんで言う通りにしなかったんだ」
「では軍服で走れとでも?」
「…なんのためのユニフォームだ」
オスカルはソックスを脱ぎながらクスクス笑っている。
ごきげんさんな酔っぱらいだ。
「別にいいじゃないか。今まで何も問題なかったのだから」
そうだな。今まではな。
「明日からは間違いなくギャラリーが出るぞ」
「まさか。おまえ、考えすぎだ」
オスカルはユニフォームの上着を脱ぐと俺に渡す。
案の定、ユニフォームの下はタンクトップだった。
おまえを見慣れているはずの俺でも目がいってしまう。
これで練兵場でランニングなんかされたら…
しかもポニーテールのおまえは、華奢な首や肩が露わになって女子力が一気に上がるんだぞ。
「オスカル、良く考えてみろ。フランス陸軍に何人の軍人がいると思ってるんだ。その中でおまえだけが」
「女だと言いたいのだろう?判っているさ、そんなこと」
「じゃあ、タンクトップとショートパンツはやめろ。無駄な露出はトラブルの元だ」
「…そうかぁ?男が見たいのは、宮廷でデコルテのあいたローブを着ているご婦人達のような、豊満な体じゃないのか?私など見たところで、たいしておもしろくもないと思うぞ。朝っぱらからギャラリーが出るほど、誰も期待してないって」
長椅子にもたれかかってそう言うタンクトップ姿のオスカルは、じゅうぶんヤバい。
普段の軍服姿ですら舐めるように見ているやつがいるのを、おまえはまったく気づいていないんだから。
俺がどれだけ気を配っているか、少しも判ってないだろう?
「ああいうご婦人達は、コルセットで豊満にボディメイクしているだけだよ。おまえだって、やればそれなりになるだろ。たぶん」
「そうだろうか」
だいたい、おまえの着けているコルセットは、仕事上の都合で胸を目立たなくさせるためのものじゃないか。
「いくら豊満に見えても、コルセットをはずしてしまえば平凡なもんだよ」
俺は何気なく言ったのだが。
「ほぉ… では、おまえは豊満に見える女のコルセットをはずしたことがある、と。そして意外と平凡だった、と」
あ”。
まず…い…
一瞬、返す言葉がなくて固まった俺を、オスカルは面白いおもちゃでも見つけたような目で見ている。
この目はまずいぞ…
俺は会話の主権を握るために、とにかく先にしゃべり始めた。
「手っ・・手首は大丈夫か?湿布、換えるか?」
「いや、そんなことより」
「えーと!!もう夜も遅いし俺もう寝るよ。おまえも寝た方がいい」
「じゃ、ひとつだけ聞かせてくれ。おまえって胸?それとも足?どっちが好きだ?」
「なっ、なんだその質問は!?」
「いや、屋敷内ではおまえは巨乳好きという噂があるからさ。豊満に見える女と聞いて、やっぱりかと思ってな」
オスカルはまたクスクス笑っているけれど、俺にしてみりゃ笑えた話じゃない。
「どこから出た噂なんだ」
「そんなこと私が知るか。でも、もはや噂というより定説になっているようだったぞ」
なんだそりゃ。
「あのなー、俺は断じて巨乳好きでは」
「あ、じゃ、やっぱり足か!うん!私も足が好きだな。貴婦人方のローブの裾からうっかり足首が見えたりするとテンション上がるよな。でも胸はなー、普段からデコルテのあいたご婦人が多いから、ありがたみが少ないだろう?」
おまえはオッサンなのか、オスカル。
「俺は足でもない」
「なら、どこなんだ?」
そんなこと言えるか。おまえならどこでも、なんて。
「……性格」
「おまえ、つまらないやつだな」
「もういいだろ。寝ろ!」
「では、あとひとつだけ」
「いいかげんにしろ!!根も葉もない噂をいちいち真に受けるな、おまえらしくもない。悪酔いしすぎだぞ」
俺が早口で言うと、オスカルは苦笑した。
「私が言いたいのは」
オスカルが右手首の包帯をクルクルとほどく。
湿布をはがすと、やはり関節が腫れ上がっている。
「けがをするなと言われたのに約束守れなかった。ごめん」
それか。そっちの話か。
もう。
……おまえは。
俺は女関係の話で追及されなかった安堵より、そんな些細な約束を覚えていて謝ってくるオスカルがめちゃくちゃかわいく思えてしまった。
でも。
「このままじゃ痛くて眠れない。アンドレ」
「そんなに!?なんで早く言わないんだ」
ねんざ程度かと思ったのに、まさか骨折?
なぜ気づいてやれなかったんだろう。
利き手じゃ剣が持てないじゃないか。馬も当分だめだ。
明日からの軍務に支障が出る!
俺がかなり焦っているのに、オスカルは柔らかい顔で笑っている。
「子供の頃のようにしてくれ、アンドレ。そうすれば大丈夫」
俺に腫れた手を突き出してきた。
なんだよ。酔っぱらいの戯れ言か。
焦らせやがってたちが悪い。
さっきまではかわいいこと言ってたのに。
俺はおまえの隣に座ると、その手首にくちびるを当てた。
子供の頃、やんちゃして暴れ回ってすり傷なんか作るとよくこうしていたな。
そんなことを思いながら目を閉じて、腫れた手首におまえの好きな聖句を唱えていたら、オスカルが俺の肩に頭をもたれて寄りそってきた。
いつも通りに甘えているだけだと判っていても、意識してしまう自分が情けない。
「しかし、まぁ、私ごときでも露出すれば、胸だの足だのに目が行く物好きもいるのかもな」
オスカル。それは物好きじゃない。あたりまえな男の100%当然な反応だ。
「私とフランソワとの約束は“一緒に早朝のランニング“だものな。服装までは言及してないか。…判った。おまえの言う通りユニフォームにする」
ああ、そうしてくれ。ユニフォームですらコスプレに見えて、俺は安心できないけどな。
「なぁ、アンドレ。おまえでも、私がタンクトップとショートパンツだと目が行くのか?」
あのなぁ、なんで俺がさっきから長々と目を閉じて、聖句を唱えているふりをしてると思ってるんだ?
そうやってタンクトップ姿のおまえが俺にくっついてると、俺の目線からは胸元の深くまでが見えるからだろ。
その中学生みたいな無自覚を早くなんとかしてくれよ。
「でも私はおまえになら見られてもいいけどな」
ちょっ…、オスカル、それってどういう意味だ?
「筋肉のつき方とか、おまえなら私に最適なトレーニングメニューを考えてくれそうじゃないか」
ああ…。そういうことかよ中学生。
でもさ。
「オスカル。おまえが代打に立ったとき、3番に俺がいるって言ってくれて嬉しかったよ。打順が来たら絶対打てる気がした。 …前にも言ったけど、おまえが欲しいというのなら命だってくれてやる。トレーニングメニューなら完璧なものを作ってやるから、頼む、もう少し女だってことを自覚してくれよ。おまえが露出度の高い格好でウロウロしてたら俺だって…… 本当のことを言えば目が行くし、そもそもおまえにとって1番危険なのは俺なんだぞ。俺の気持ちは知ってるだろ?今だって俺には、おまえが誘ってるように感じるぐらい、おまえは無防備…… って、オスカル?」
おまえは俺に寄りかかって爆睡していた。
どうせそんなことだと思ったけどさぁ!
話ぐらい聞けよ―――!!
人が過去のトラウマを交えて真剣に話そうとしてるときにっ!!
ああ、もうっっ
て、ゆーか……落ちつけ、俺。
はあぁぁぁ。
しっかし、こいつ、よく平気で寝られるな。
繊細なんだか図太いんだか、ときどきおまえが判らなくなるよ。
でも、まぁ。
おまえの寝顔を見られる人間は、そう何人もいないから。
仕方ない。まだしばらくは兄貴でいてやるさ。
俺はオスカルを抱き上げると、ゆっくり眠らせるために寝室へ運んでいった。
いつかは眠らせないために寝室へ連れて行きたいけれど。
FIN
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